本研究では,部分的に原子間隔を変化させ,その部分の摩擦力を測定して,応力分布と摩擦力分布の関係を明らかにすることを目的としている.そのためには、AFM(atomic force microscope)の試料台上で応力分布を発生させる仕組みが必要となる.そこでMEMS(microelectromechanical systems)技術を用いて、SOI(silicon on insulator)基板上に静電アクチュエータにより力を発生させる応力集中マイクロデバイスを作製した。 応力集中を得る方法として、曲げによる方法、引っ張りによる方法について検討を行った。このうち引っ張りによる方法では、応力集中を高めるために20ミクロンの厚さのデバイス層のハンドル層側をFIB(focused ion beam)で削ることも試みた。応力集中の有無による摩擦力の差を比較するため,応力集中を起こしている測定部と十分離れた応力が作用しない部分での2箇所の平均摩擦力を測定した.測定には、SII ナノテクノロジー社製AFM SPA300HVを用い、荷重と走査速度をパラメータにとり、電圧の印加の有無による摩擦力の変化を調べた。曲げにより応力集中を加えた時に、0.3μm/s以下の速度で荷重が高い時に摩擦係数の差が大きくなる傾向が確認された。また、部分的な酸化膜の影響とプローブ先端の摩耗の影響により摩擦力分布の確認が難しかったため、走査ライン毎に電圧(応力)を変化させる実験も行ったが、明確な摩擦力分布は確認出来なかった。 これらに加え、理論的な検討を行うために、分子動力学法によるシミュレーションも行った。実験系と同様にSi(100)面同士を摩擦させ、一方を2%程度歪ませたときに、20%程度摩擦力が低下することを確認した。
|