研究課題/領域番号 |
16K14146
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福澤 健二 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60324448)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己修復膜 / 液体膜 / マイクロマシン / ナノトライボロジー / 分子間力 |
研究実績の概要 |
固体面を摺動すると,摺動面の一部が凝着し,さらに破断することによりエネルギーが散逸し,摩擦損失が発生する.そのため,液体膜で摺動面を被覆し凝着特性を制御することで,自己修復可能でかつ,凝着・摩擦特性を制御可能な機能性固体面を創成できる可能性がある.液体膜は,固体面を十分被覆するための厚さが必要であるが,厚すぎると固体面間で液架橋を形成してしまうため,膜厚制御が必須である.本研究では,マイクロ構造を用いて,静水圧など液体全体に働くマクロな圧力により,固液間の分子間相互作用に起因するミクロな圧力を制御することで,ナノメートルオーダの厚さの液体膜を制御することを目的とした. 本年度は,マイクロ構造およびその作製法を検討した.マイクロ構造は,機能性固体面と液体供給のための液溜部を一体化した構造とした.ナノ厚さ液体膜の流動速度は低く,固体面に速やかに液体を供給するために,流路長の短い微細な構造が必須となる.そのため,マイクロマシン技術を用いたマイクロ構造およびその作製法を検討した.すなわち,固体面の直下に液溜部を配置する構造とし,固体面に液溜部を接続する穴構造を有するものとした.着想したマイクロ構造を設計・試作し,おおむね,ねらいとした構造が得られることを明らかにした.さらに静水圧を用いたナノメートルオーダの厚さの液体膜の膜厚制御について,原理確認のための,液溜部に他端を開放したチューブを接続し,さらに固体面のナノメートル厚さの膜厚を測定可能な実験系の構築に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,静水圧などのマクロな圧力によるナノメートル厚さの液体膜の膜厚制御が可能であるかどうかの原理確認のためのマイクロ構造および作製法の検討を進めた.ナノメートル厚さの液体膜の移動速度は比較的低いため,静水圧などのマクロな圧力により液体膜の分布を制御するには,マイクロ構造が必須であると考えた.そして,マイクロ構造としては,潤滑膜などで覆われる機能性固体面と液体供給のための液溜部を一体化し,液溜部の一端は印加圧力調整用の開放端とつなぐ構造とすることとした.具体的な構造としては,一部穴の開いた固体薄膜が支持基板に懸架される構造とした.固体裏面と基板の空洞部で液溜部を構成する構造とした.マイクロ構造は,シリコン基板を垂直に深堀可能なDeep-RIE(Reactive Ion Etching)法を用いた.基板としては,上下のシリコン層の間に酸化シリコン層が埋め込まれているSOI(Silicon On Insulator)ウェハを用いた.SOIウェハの酸化シリコン層はエッチングされず,エッチ・ストップ層となるため,上面と下面からエッチングすることで,上下面で異なる構造(固体面と液溜部)の形成を試みた.マイクロ流路内の酸化シリコン層は,シリコンエッチング後,フッ酸水溶液を用いた化学エッチングにより除去し,マイクロ流路と液溜部を接続した.本作製法により,ねらいとしたマイクロ構造の作製が可能であることを明らかにした.さらに,液体全体に働く静水圧とナノ厚さ液体膜に働く分子間相互作用による圧力とのつりあいを利用した膜厚制御の原理確認のために,作製したマイクロ構造を用いた膜厚制御系の構築に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に着手した膜厚制御の原理確認のための計測系の構築を進め,マイクロ構造によりナノメートル厚さの液体膜の膜厚制御を試みる.具体的には,液体全体に働く静水圧とナノ厚さ液体膜に働く分子間相互作用による圧力とのつりあいを利用した膜厚制御の可否を実験的に検証する.静水圧の印加法としては,マイクロメータ付きステージに取り付けたプラスチックチューブをマイクロ構造の液溜部に接着・封止し,ステージにより圧力印加口の高さを変えることで,液体膜に印加する静水圧を調整可能な流路系を構築する.そして,固体面上の液体膜の厚さは,現有の市販エリプソメータを用いてナノメートルオーダの精度で計測する.そのため,マイクロ構造と静水圧調整用のマイクロメータ付きステージを,エリプソメータの一部改造あるいは治具を工夫するなどしてエリプソメータに取り付ける.潤滑剤としては,蒸発量が小さく,挙動の推定が比較的容易な無極性の液体(フッ素系潤滑剤perfluoropolyetherなど)を用いる.膜厚制御の検証としては,圧力印加口の高さを変えながら,固体面上の液体膜の厚さをエリプソメータにより測定し,圧力印加口の高さにより膜厚が制御できるかどうかを実験的に検証する.また,これに加えて膜厚の経時変化を測定し,自己修復の応答性能も評価する.これらをもとに,効率のよい膜厚制御のための構造と作製法を改良し,自己修復可能な機能性摺動面を実現するマイクロ構造の指針を決定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
シリコンSOIウェハについて海外メーカの作業の遅れにより,納入が遅延されているため.
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次年度使用額の使用計画 |
現状のストックで研究を進め,発注分については早期納入を求めて研究計画遂行に遅延がないようにする.
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