研究課題/領域番号 |
16K14148
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
竹村 研治郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (90348821)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電界共役流体 / 機能性流体 / イオン移動度 / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
電圧を印加すると流動する電界共役流体(ECF)として多くの液体が報告されているが,本研究ではデカン二酸ジブチル(DBD)に生じる流動を研究対象とした.これは,DBDは構造式が明らかな単一物質であるためである.はじめに,DBD中での電位分布を測定した.DBDに流動を発生させるには,液中に電極対を挿入して電圧を印加する必要があり,これに応じて,ECF中には電位分布が発生するが,従来のECF流動モデルでは電極間において線形あるいは非線形な電位分布を仮定していた.電圧を印加した際に微小なプローブを挿入して電位を測定する静電探針法を用いてDBD中の電位分布を明らかにすることによって電極間で線形の電位分布が発生していることを確認した.なお,電位分布を測定した実験系には,DBDを充填したチャンバ内に直径0.3 mmの線状電極を2本,中心軸を合わせて電極間隔2 mmで対向して配置した対向棒電極対を用いた. つぎに,DBD流動の支配方程式を決定した.上記で測定した電位分布に応じてDBD中での電位分布を線形モデルで計算し,DBD流動の支配方程式をKorteweg-Helmholtz式で計算される電気力を導入したナビエストークス方程式によってECF流動をモデル化し,DBD流動を計算機中で再現した.ただし,支配方程式に現れる電気的パラメータのひとつであるイオン移動度は実験的な計測には複雑な過程を必要とするため,本研究では分子動力学計算を用いて理論的に算出した.このために,イオン移動度の実験値が報告されている炭化水素を例に,分子動力学計算がイオン移動度の算出に有効であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では,平成28年度は電界共役流体(ECF)中における電界分布の計測と,ECF流動のモデル化を行う予定であった.つまり,ECFの物性値の理論的な決定は平成29年度に予定していたが,電界分布の計測と流動のモデル化が順調に進んだため,分子動力学計算を用いたECF物性値(イオン移動度)の理論的な算出を平成28年度に前倒して達成した.また,分子動力学計算によるイオン移動度の算出は,ECF流動の計算のみならず,炭化水素の物性値の計算にも活用できるため,イオン移動度の計算手法として独立した学術論文として発表した.このため,現在までの進捗状況を「当初の計画以上に進展している」と判断している.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画よりも順調に研究が推移しているため,今後の研究を以下のように計画している. 構築した流動モデルの妥当性を検証する.はじめに,電界共役流体(ECF)に発生する流動を可視化し,実際に現れる流速分布を測定する.これまでに構築したECFの流動モデルの妥当性を検証するには,実際に観察されるECF流動との比較が不可欠である.そこで,ECFに発生する流動の可視化実験の結果から粒子画像流速計測法(Particle Image Velocimetory, PIV)を用いて実験的に流速分布を明らかにする.なお,可視化する流動は平成28年度の研究で用いた対向棒電極対により発生させ,作動流体はデカン二酸ジブチルを予定している.これにより,対向棒電極対によって発生する流動の2次元的な流速分布を明らかにする.つぎに,本研究で構築したECFの流動モデルを用いて数値シミュレーションを行い,対向棒電極対によってECFに発生する流動の流速分布を計算する.なお,計算コストの都合上,当初は2次元での流速分布の計算を行い,上記の可視化実験で求める流速分布と比較することを計画している.2次元での流速分布の妥当性が確認できた後,3次元モデルへと拡張することによって可視化実験では計測が難しい3次元的な流速分布の理解を進める計画である.流動モデルの妥当性が確認された後は,構築したモデルを利用して活発な流動を発生するための電極形状の最適化を行うことを予定している.
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