研究課題/領域番号 |
16K14150
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊地 謙次 東北大学, 工学研究科, 特任助教 (00553801)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経皮吸収促進 / 薬剤浸透 / in vivo計測 / 二光子顕微鏡 / 機械的刺激 |
研究実績の概要 |
経皮吸収薬の薬剤浸透量を能動的に制御するには,皮膚内部の三次元構造と薬剤物性および塗込せん断速度と薬液浸透量の関係を結びつける定量的解析が必要不可欠である.本研究では,経皮吸収薬の浸透を表皮における塗込動作による能動的制御を目的とし,二光子顕微鏡を用いた革新的な非侵襲皮膚三次元構造の計測と,共焦点顕微鏡を駆使した独創的な薬剤せん断速度計測および浸透量計測を行い経皮吸収量の能動的制御法の開発を目的としている. 本年度は, 1)二光子顕微鏡を用いて,in vivoにおけるブタ皮膚の三次元組織構造の計測手法の構築を行なった.生体毒性がほとんどない蛍光分子ウラニンを薬剤モデルとし,薬剤モデルが皮膚内部根浸透した後に,二光子顕微鏡で皮膚内部を観察することで薬剤浸透経路の観察に成功した.また,皮膚表面の角質層をローダミンBにより可視化することで,薬剤と皮膚との境界となるミクロスケールの構造の計測に成功した.また,選択的組織染色により皮膚内部における乳頭層の配向構造を細胞核の分布とその局在を可視化することに成功し,薬剤浸透と皮膚内部の詳細な構造の計測を行なった. 2)共焦点顕微鏡を用いて,皮膚表面に付した薬剤の経皮吸収量の計測法の構築を行なった.皮膚に付した薬剤モデル内の蛍光輝度の時間的変化について,高速共焦点スキャナーを使用して計測することで,これまで我々が提案してきた共焦点顕微鏡による傾斜観察法を発展的に応用し,観察面を傾斜させ奥行き方向の浸透を同時刻に計測する手法を開発し,薬剤濃度の時間変化から皮膚内部へと浸透する経皮吸収薬剤量のリアルタイム計測に成功した.また,皮膚にせん断付加を作用させる機械的摺動装置の設計及び開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初の研究計画は,薬剤物性の異なる薬剤を用いた皮膚組織構造の可視化と画像処理による皮膚組織の三次元構造の特徴抽出,及び塗込動作を皮膚に付加するの摺動装置の製作と塗込効果の装置の組み立てであった.前者に関しては,薬剤モデルを用いた浸透経路から皮膚内部の三次元構造を可視化することに成功した.また,選択的組織染色により皮膚内部における乳頭層の配向構造の詳細を可視化することに成功し,薬剤浸透と皮膚内部の詳細な構造との関係を抽出する手法開発まで,本年度内に着手することができた.また,後者に関しては,当初計画していた薬剤内の速度分布計測を目指していたが,上述の皮膚内部構造と表面構造の詳細な溝構造があることから,速度分布計測が困難ということが明らかとなった.しかし,皮膚表面近傍の速度分布計測の目的は,皮膚へのせん断応力の推定に用いることを想定しており,この根本的な解決方法として一定ずり速度を付加することが可能な摺動機構を設計・製作することで,薬剤のずり速度を機械的に与える代用手法を考案し,構築した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に推進された二光子顕微鏡を用いたin vivoにおけるブタ皮膚の三次元組織構造の計測手法,共焦点顕微鏡を用いた皮膚表面に付した薬剤の経皮吸収量の計測法の構築,また研究推進上の困難から発展的に開発が進められた一定ずり速度を付加することが可能な摺動機構の製作を基に,来年度はそれらの計測手法と装置を有機的に組み合わせ,本研究の最終目的である,摺動による塗込まれる経皮吸収における浸透促進効果の解明に着手する.まずは,薬剤モデルの薬剤物性における薬剤浸透経路を抽出し,皮膚を構成する組織素材と薬剤物性との貯留性や吸着性,また疎外性を評価する.さらに皮膚組織構造と薬剤浸透の選択性について対応付けし,皮膚における薬剤浸透メカニズムについて考察を深める.また,加えたずり速度の異なる皮膚モデルにおける薬剤浸透における透過係数を見積もり,最終的には皮膚表面の三次元構造と計測した透過係数の空間分布を一対一で対応付けすることにより,皮膚構造と薬剤浸透特性および浸透促進効果の定量評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施予定であった実験で購入予定であった3軸リニアステージ一式の購入を次年度に繰り越したため,次年度使用額が生じた.また,次年度に繰り越した実験のデータ整理に充てる予定でいた人件費も同様に次年度使用へとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に購入予定であった3軸リニアステージ一式は,当初せん断速度計測及び皮膚内部の薬剤モデルの濃度計測,また皮膚内部構造の可視化計測に使用する目的で購入予定であった.前者のせん断速度計測では,試行錯誤のうちに本来計画していた手法より定量的な摺動機構を開発するに至ったので,リニアステージが使用しない手法を採用した.しかし,後者2つの実験では来年度に計画された皮膚構造と薬剤浸透特性および浸透促進効果の定量評価には,リニアステージが必要不可欠なため,来年度に実験装置へと組込み,最終目的である摺動による塗込まれる経皮吸収における浸透促進効果について調査を進める予定である.
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