研究課題/領域番号 |
16K14156
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松田 佑 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (20402513)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 流体工学 / マイクロ流 / 紙流体チップ |
研究実績の概要 |
研究代表者は,紙流体チップの機能向上のため,電気回路印刷技術の紙流体チップへの適用を提案している.初期段階として,銀ナノ粒子インクを市販のインクジェットプリンターを用いて紙面上へプリントすることで電気回路とした.この手法により,イラストレーションソフトを使ってデザインした回路パターンを紙面上にプリントすることで,紙面上でのヒーターを作成することに成功している.これにより,紙流体チップ上で困難とされてきた反応熱の必要な化学反応分析の実現や,試料の濃縮が簡便に実現可能であることを示している.しかし,市販のインクジェットプリンターでは,各メーカーの純正インクを塗布する前提で設計が行われており,銀ナノ粒子インクを塗布するのに最適化されていないため,ノズルの目詰まりや塗布精度・再現性の低さが課題点として判明した.そこで,研究開発用のインクジェットプリンターを導入することで回路印刷の精度と再現性を向上させることを目指した.具体的には銀ナノ粒子インクに最適なインクジェットノズル径の選定を行うと共に,ピエゾ素子の駆動周波数などのインクジェット塗布条件の選定を実施した. 今年度以降は,選定した条件下において電気回路をインクジェット塗布し,引き続き紙流体チップの機能向上に向けた研究を実施していく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで予定した研究を順調に実施している.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,電気回路印刷技術を用いた紙流体チップの機能向上に取り組む.具体的には下記の研究を推進することを目指す. 疎水性の物質を印刷した流路パターン中に,試料流体を浸透させると,毛細管現象により試料流体が紙に浸透していく.通常の紙流体チップでは,この流れは制御することができないが,本研究ではインクジェットプリントにより作製したヒーターを用いて試料流体を加熱することで流量調整を実現する.Lucas-Washburnの式によると,流体の浸透速度は流体の粘性率が低下すると速くなり,表面張力が低下すると遅くなる.一般に流体を加熱することで,粘性率,表面張力は共に低下する.多くの液体で表面張力の温度依存は粘性係数の温度依存に比べて小さく,流体を加熱することで,紙ベース流体チップ中を浸透する流体の見かけ速さを大きくすることができるため,この原理にもとづいた流量制御手法を実現する. またヒーターで強く加熱することで,試料流体中の溶媒を蒸発させることが可能である.すなわち,流路パターンのある箇所で強く加熱し,溶媒を蒸発させることで,加熱時間に比例して溶質を濃縮することが可能となる.これにより,ターゲット物質が検出限界以下であっても,試料濃縮することで分析が可能となり,紙流体チップの応用範囲を大きく拡げる.また,ターゲット物質が荷電している場合,電気泳動によって試料分離や濃縮が行える.本研究では,プリント電気回路を適切に設計することで,紙流体チップ上で電気泳動を実現する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初,昨秋において国際会議などでの成果発表を予定していたが,その時点での研究進捗が予定より遅れており,成果発表を回避したため.なお,その後は研究計画を見直すことで年度での研究目標は十分に達成できている.
|
次年度使用額の使用計画 |
本年においては,上記のように成果発表できなかった国際会議などに積極的に参加することで当初予定の使用計画を,全研究期間を通じて達成できるようにしたい.
|