研究課題/領域番号 |
16K14162
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
川口 靖夫 東京理科大学, 理工学部機械工学科, 教授 (20356835)
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研究分担者 |
塚原 隆裕 東京理科大学, 理工学部機械工学科, 講師 (60516186)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乱流 / 粗度 / 摩擦抵抗 / PIV / DNS |
研究実績の概要 |
固体表面に存在する不規則粗度に対して、測定した粗度曲線から摩擦抵抗が予測できる解析方法を提案するための研究を実施している。従来は粗度を「等価砂粒粗さ」というパラメータによって代表させ、これから摩擦係数を求める方法(ムーディー線図)がよく用いられてきたが、抵抗が未知である新規の粗度に対しては摩擦の大きさを予測することができない。本研究ではレーザによる流体計測、DNSによる数値解析的研究といった高度な手段により得られた知見を統合して、より一般性のある解析への道筋を提示することを目指している。 本研究では、①粗度面をまず円錐の集合体(Set of Multi dispersed Cone Model = SMCM)と見なしてモデル化する。このモデルは砂粒粗さや、粗く塗料を吹き付けた面に対してはフーリエ変換より少ない項数でよい近似を与える。②SMCMは3次元粗度面を忠実に模擬できるが、そのまま数値解析に用いるには大きな計算量を必要とする。そこでSMCMの流体力学的特性を失わない範囲で、多孔質モデルPMMを提案する。多孔質モデルは具体的な不規則粗度の形状から誘導でき、1次元モデルであるというメリットがある。③PMM化した不規則粗度に対し乱流計算を行い、実測による摩擦係数、速度分布と対比して総合評価を行う。 今年度は計画通りの進捗があり、来年度に向けて実績を蓄えることができた。不規則粗度面には無限の自由度があるものの、実用で重要な粗度面はSMCMにより表面形状を近似することが可能であり、流体力学的な見通しもつけやすくなることがわかった。さらに不規則粗度をもつ面の摩擦抵抗は、実験によるとEffective roughness length=ERLMとよく関係づけられることがわかり、粗度曲線からSMCMを推定できるのでERLは直ちに計算でき、粗度曲線から摩擦抵抗を求める筋道が立つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究計画調書p6の項目【1.1不規則粗度の摩擦特性の把握(実験的検討)】のうち【1.1.1 不規則粗度付き円筒試験体の製作、表面形状の測定】を行った。不規則粗度は船底用塗料を塩ビ製試験円筒(L=300mm, R=155mm)にわざと粗く塗布して系統的な粗面サンプルを作成した。表面粗度はキーエンス社製VR-3200を使用して3次元的に測定した。さらに粗度を統計的に表すパラメータ群を計算した。粗度高さのrms, 高次のモーメント、pdf、Effective roughness length(斜面の勾配値の絶対値を線上で積分した値)、さらに粗度のピーク高さのpdfを算出した。【1.1.2 不規則粗度付き円筒の摩擦抵抗係数の測定】については、2重円筒試験装置の水中に試験円筒を浸漬し、モータで回転させテーラークエット流れの状態を作り、円筒軸にかかるトルクを計測した。試験体の摩擦係数では1%以内の精度が常に確保されている。。 小項目【1.1.3 円錐状突起の摩擦抵抗係数の測定とPIVによる円錐周りの速度測定】を行った。円錐状突起をもつ試験体は、3次元プリンタによって製作した円錐(高さ3.76mm, 頂角90°)の144個から1323個を平滑な円筒に貼りつけた試験体3種を作成した。さらにこの試験体の摩擦抵抗係数とPIVにより円錐近傍の速度分布を測定した。 【1.2 不規則粗度の摩擦特性の把握(数値解析による検討)】の項目では、【1.2.1 DNSコードのチューニング】、【1.2.2 円錐状突起周りの流れと応力のDNSによるシミュレーション】を行った。高レイノルズ数で、不規則粗面近傍の流れを忠実に解くと高コストになるので、ここでは格子ボルツマン法(LBM)を導入し、DNS計算を効率的に行う準備を行った。部分細密格子によるチャネル乱流のテストケースでコードの確認を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、実施計画書p6の項目【1.1(実験的検討)】と【1.2(数値解析による検討)】をそれぞれ実行していく。【1.1.4 不規則粗度付き壁面近傍における速度測定】では、28年度に作成して摩擦抵抗を測定済みの試験円筒を2重円筒試験装置に設置し、回転させ、粗度近傍の速度測定を行う。PIVにより速度の空間分布を記録する。これをもとに平均速度とレイノルズせん断応力の分布を調べる。 【1.2.3 不規則粗度付き壁面近傍のDNSによるシミュレーション】では試験体から採取した表面形状を境界条件とし、局所細密化格子を用いたLBMによるDNS解析を行う。粗度の内側、外側の流れ場と摩擦抵抗を求め、モデル化への準備とする。 【2.データ統合とモデル化】では【2.1 粗度曲線からSMCMモデルのパラメータの抽出、実証】を行う。種々の高さ分布をもつ円錐が平面に立ち並んでいる3次元的なモデル(SMCM)のモデルパラメータである円錐頂点のpdfと粗度曲線との間には一定の関係があることから、ベイズ推定により粗度曲線から円錐頂点のpdfを求めることができる。【2.2 SMCMモデルから減速効果、小噴流効果を適切にモデル化し、現有のデータと矛盾を生じないようにMMCモデルを構築】これまでの考察をまとめ、多孔質体モデル(PMM)の形にまとめる。PMMは3次元的な構造は持たず、壁からの距離yに応じて空隙率と長さスケールの分布をもつ形をしており、1次元モデルであるが減速効果と小噴流効果を模擬することができる。 【3.乱流計算と実証】では、壁面粗さ形状を与え、ASCMモデルを介してPMMを作成し、乱流計算を行う。【3.1 規則粗度、不規則粗度の摩擦特性のデータ収集】、【3.2 MMCモデルを境界条件とし、k-eモデルを用いて流れと壁面摩擦力を予測し、現有のデータと矛盾を生じないかの検証】をそれぞれ行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に到り、消耗品費に小額の繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算の消耗品と合算して計画通り使用する。
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