研究課題/領域番号 |
16K14170
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津江 光洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50227360)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非平衡プラズマ / 点火 / 希薄混合気 / 分光 / 化学反応 |
研究実績の概要 |
様々な圧力環境下での高周波バリア放電挙動と点火特性を調べるため,室温の定容容器内において実験を実施した.定容容器壁面にバリア放電プラグを設置し,容器内にメタン/空気希薄混合気に対して点火試験を実施した.圧力が放電状態やプラズマ形成に及ぼす影響に着目し基礎実験を実施した.本年度は高周波放電試験を実施するための電源を製作し,周波数を600kHz,800kHzおよび1030kHzとパラメータが振れるように設計を行った.高周波放電の周波数を変化させることにより,ラジカルや電子生成に及ぼす周波数の効果を実験的に調べることを目指した. 本年度はバリア放電時のストリーマーの形成挙動を10kPaから1000kPaの圧力雰囲気中で調べた.100kPaまでにおいては,プラズマの発光が放電期間とほぼ一致していた.これは放電中に電子が衝突する時のみプラズマが生成し,非平衡プラズマが生成していると考えられる.一方で,大気圧以上圧力を上昇させると,十分な電圧が加えられた場合にはプラズマが保持され,プラズマの発光期間が延びることがわかった.これは非平衡プラズマから熱プラズマに遷移していると考えられる. これらの挙動の妥当性を確認するため,エシェル分光器およびイメージング分光器を使用してプラズマの発光スペクトルを実験的に調べた.空気とメタン/空気混合気に対してプラズマの発光スペクトル計測を行った.エシェル分光器により原子や分子に起因したスペクトルを同定した.その後656nmのHαのスペクトルに着目し,その周辺のスペクトルを高速度カメラを用いて測定した.その結果,3気圧程度の高圧力環境において,放電期間中にプラズマのスペクトルが原子スペクトルから連続的なスペクトルに変化しているのが観察された.非平衡プラズマから熱プラズマへの遷移が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは非平衡プラズマと熱平衡プラズマの点火特性を明らかにすることである.我々の研究グループでは,高圧力環境ではバリア放電のような放電形態においても熱平衡プラズマに遷移していると仮説をたて研究を実施してきた.本研究では本年度において,プラズマ発光の分光計測において非平衡プラズマや熱プラズマの存在が確認された.特に分光器を用いた高速計測では,放電期間中に黒体放射による連続スペクトルの発生が明確に観察され,低温プラズマから熱プラズマへの遷移が実験的に観察することができた.今後,非平衡プラズマから熱平衡プラズマへの遷移挙動を様々な圧力および放電周波数において観察することで,それらの遷移挙動を明らかにすることができる.幅広い波長域においては,エシェル分光器の感度が悪く,動的なプラズマ測定が不可能であり電子温度の測定等は困難であった.しかしながら,分光放射特性の観察により熱平衡および非平衡プラズマの遷移挙動の高速観察手法を確立できた.それにより今後の研究が大きく進展すると考える. 点火挙動に関しては放電周波数を変化させて実験を実施した.放電期間を一定あるいは放電回数を一定として放電周波数を変化させて挙動を調べた.同じ放電回数を加えた場合には,高周波の方が放電期間が短いにも関わらず点火の希薄限界が拡大することが確認された.これは,我々の現象モデリングの挙動と一致しており,電子やラジカル生成挙動の仮説が確認されたと考えられる. 今後,上記結果に基づき,実験パラメータを設定して実験を実施することにより非平衡,熱平衡プラズマの発生挙動を調べる.そのベースとなる基礎データと指針が本年度に得ることができた.これらの放電特性やプラズマ生成特性を理解することで,定圧力および高圧力環境下における反応性を明らかにすることが出来ると考えらえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も大気圧以下の定圧力環境から1000kPa程度の高圧力環境下に至るまで,周波数の違いによる反応性の違いを実験的に調べる.今後は電圧および電流値を解析することにより,非平衡プラズマ生成時の投入エネルギーを調べることにより投入エネルギーと周波数および反応性の関係を実験的に調べる.プラズマ状態,状態の遷移に及ぼす影響を明らかにした後,それらの反応性に及ぼす影響を明らかにする. 高圧力環境下における非平衡プラズマを生成するため,当初は10MHz程度まで放電周波数を上昇させることを想定していた.予算の制約や技術的な課題により,現状は1MHzの放電が上限となる.1MHzの周波数でも放電期間を短くすれば非平衡プラズマの生成が可能であった.放電期間のコントロールにより点火性を考察する.プラズマの温度測定に関してはエシェル分光器を用いた測定は感度不足により現状では困難である.今後は放射スペクトル測定に関して,分子や原子のスペクトル強度比を理論計算値と比較することにより推定を試みる.それらの情報を総合して,高圧力バリア放電時におけるプラズマ状態の把握を目指す. 数値解析においては,非平衡プラズマと燃焼のハイブリッドモデルを作成する.主要な化学種である電子やラジカル濃度に着目しDRG法あるいはDRGEP法を適応し深さ優先探索を行うことにより,ラジカル生成のスケルタルモデルの作成を行う.それにより並進温度(=回転,振動温度)と電子温度の二温度モデルを用いたモデリングを行うことにより,プラズマ反応と燃焼反応を同時にあるいは切り替えて計算することでバリア放電が点火に及ぼす挙動を数値解析により明らかにする.またこれらのモデリングにより研究室レベルで実施可能な数値流体解析への適応を検討する.
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