研究課題/領域番号 |
16K14172
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
石井 一洋 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20251754)
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研究分担者 |
片岡 秀文 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10548241)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 燃焼 / デトネーション / 衝撃波 / バブル |
研究実績の概要 |
低コストで環境負荷の低い液体殺菌法として、水中衝撃波とマイクロバブル添加の相乗作用が提唱されている。これまでに、マイクロバブルを含んだ水中に衝撃波が伝播すると、マイクロバブルが収縮・膨張する過程で高い圧力が生ずることが知られている。マイクロバブルが衝撃圧縮されるとバブル内の気体は瞬間的に高温・高圧となるので、可燃性混合気でマイクロバブルを構成して気相爆轟を起こせば、更なる超高圧の生成が可能と考えられる。以上の背景から、本研究では安定してマイクロバブル爆轟を起こす技術の開発を目的としている。 平成28年度は、マイクロシリンジより可燃性ガスを押し出す方法で比較的径の大きいバブル列を試験部内に導入し、水中衝撃波を入射させた。可燃性気体としてエチレン-酸素量論混合気を用い、バブル内の反応の有無は高速度シャドウグラフ撮影より判断した。また、バブル膨脹時に生成される衝撃波の圧力は水中衝撃波センサーにより計測した。なお、マイクロシリンジから放出されるバブルの移動方向は鉛直上向きとは限らず、螺旋を描く等、毎回ばらつくことが多い。水中衝撃波センサーの感度は入射する衝撃波面に対する角度依存性があり、またバブル位置と水中衝撃波センサーとの距離を一定範囲内に抑える必要がある。そこで試験部の観測点にHe-Neレーザーを入射し、レーザーによりバブルを検出した場合のみ水中衝撃波を印可することとした。その結果、以下のことがわかった。①衝撃波が気泡に作用した後、エチレン-酸素気泡は収縮・発光の後に膨張して、水中に球状衝撃波が伝播した。②エチレン-酸素気泡が生成した衝撃波圧力は、本実験条件では最大54MPaであり、気泡から2.0mmの距離で計測された。③気泡からの距離と生成した衝撃波圧力はおおよそ反比例し、気泡初期半径の約2.5倍までの範囲では、入射衝撃波圧力より気泡の生成した衝撃波圧力が高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可燃性バブルの爆轟の有無を確認するには、可燃性気体反応時に生ずる自発光を検出する必要がある。また水中でのバルブ再膨張で生成する衝撃波は、球状伝播の爆風波と同様に距離とともに大きく減衰するため、圧力計測はバブル近傍で行う必要がある。しかしながら、水中ではバブル挙動がランダムであり、バブル内の可燃性ガスが水中衝撃波通過後に反応する際に、バブルは水中衝撃波センサー近傍にあるとは限らない。また水中衝撃波センサーの感度も、衝撃波面とセンサー取り付け方向との角度に依存するため、水中衝撃波センサーの出力結果はバブルの位置により大きくばらつくことになる。 水中衝撃波による不活性バブルの圧壊に関する研究は、これまでも数多く行われているが、バブルから生ずる衝撃波について定量的に計測している研究例は非常に少ない。これは上記の計測上の困難さによるものと思われる。本研究では、試験部の水中衝撃波センサーと同一水平面上に設置した計測点にレーザーを入射させ、バブルが計測点を通過するときにレーザー透過光強度が減衰することをトリガーとして利用して、バブル通過と同期させて水中衝撃波の入射および高速度シャドウグラフ撮影を行った。これにより、バブルと水中衝撃波センサーとの位置関係を常に把握することが可能であり、有用な圧力計測結果を得ることができた。 当初計画では回転多孔質円盤型マイクロバブル発生装置を開発する予定であったが、バブルから生ずる衝撃波の圧力計測手法の開発に時間を要し、この開発は行わなかった。しかしながら、次年度にはバブル粒径を積極的に変化させる実験を予定しており、この中に組み入れる予定である。なお本研究の基盤となるバブル爆轟某生成条件は求められており、本研究で実施している圧力計測例は世界的にも例はなく、本研究は「概ね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、マイクロバブル発生装置を製作するとともに気泡径を変化させた実験を行い、マイクロバブル爆轟生成技術を確立し、水中衝撃波圧力最大化の検討を行う。具体的には以下の事項を行う。 1.回転多孔質円盤型マイクロバブル発生装置の開発:現在採用しているマイクロシリンジ等の細管からガスを押し出す方法では、細管内径の数倍程度の気泡径となり、比較的大きなマイクロバブルしか作ることができない。そこで多孔質円盤から気体を噴出させると同時にその円盤を回転させることで、剪断力を利用して気泡径の小さいマイクロバブル発生装置を開発する。 2.気泡径を変化させたマイクロバブル爆轟試験:多孔質円盤の気孔径と回転数を変えることでマイクロバブル気泡径の制御を行い、気泡径がマイクロバブル爆轟の正否に及ぼす影響を調べる。 3.バブル誘起水中衝撃波の圧力予測モデルの構築:既存の単一バブルに対するモデルに化学反応モデルを組み込み、可燃性バブルが圧縮・反応・膨張する時に生成する衝撃波圧力予測モデルを構築する。 4.バブル誘起水中衝撃波の圧力最大化検討:様々な入射衝撃波圧力およびバブル径に対する実験結果および水中衝撃波予測モデルを基に、マイクロバブル爆轟によって得られる最大圧力とその持続時間が最長となる条件を求め、水中衝撃波圧力が最大となる条件について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、単一バブルを対象として、水中衝撃波通過後にバブル膨張により生成される衝撃波の圧力計測手法を開発し、入射衝撃波を上回る圧力を計測している。しかしながら圧力計測手法の開発に時間を要し、回転多孔質円盤型マイクロバブル発生装置の開発に着手できなかったために、次年度に使用予定の研究費が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、バブル径を積極的に変化させてバブル爆轟および衝撃波生成に及ぼす影響を調べるとともに、生成される水中衝撃波の最大圧力ならびに持続時間が最長なる実験条件を求めることを計画している。したがって次年度使用額は、当初計画で使用を予定していた「バブル径の変化方法」の内で、回転多孔質円盤型のマイクロバブル発生装置の開発に充てる。平成28年度はマイクロシリンジよりガスを押し出す方式を採用しているが、これでは生成可能なバブル径に下限があり、ミリバブル程度しか作成することができない。この問題は、流体の剪断力により細かいバブルを生成する回転多孔質円盤型とすることで解決できる。しかしながら、一度に多数のバブル生成されるため、単一バブルからの圧力計測は困難となる。そこで試験部内壁に設置した圧力計によっても衝撃波圧力評価を行う。
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