ボート競技の競技力向上の要素は、複数人の漕ぐ動作のタイミングが一致し(以後、同調性)、調子が持続すること(以後、持続性)である。しかし、これらの同調性や持続性について客観的な評価は無く、習熟のために鍛錬が必要であり、効率化が期待されている。 国外では、同調動作を必要とする複数人競技スポーツにおいて、パフォーマンス向上のため、競技状態を可聴化した機能音による支援について検討されている。スウェーデンではSONEA(SONification of Elite Athletes)プロジェクトが進められ、ボート競技では一人漕ぎシングルスカルの漕艇状態を音情報で選手やコーチに通知する有効性が確認されている。一方、国内では、漕艇後に漕艇状態をビデオで確認する程度に留まり、漕艇中の音情報によるアスリート支援に関する研究は見られていない。また、艇の揺動による造波抵抗の低減が速度や快適性の向上に有効であり、複数人競技者によるばらつきの少ない同調動作が要求される。 これまで、応募者は、競技力向上のため、漕艇時の一人漕ぎ用のボートおよびオールの振動を三軸加速度センサで測定し、振動が艇速および漕手の快適性へ与える影響について検討し、漕手の動作が振動に顕著に現れることを明らかにした。 そこで、本研究では、二人漕ぎ以上のボート競技を想定し、エルゴメータを用いた模擬漕艇環境で、動作の同調度合いについての主観評価、および生体情報に基づく客観評価を実施した。また、情報取得行動の解析手段として興味の強さや交感神経系の働きが測れる瞳孔径に着目し、漕艇状態を表す稼働音による同調支援の効果を把握した。他者との同調動作が必要な場合では、漕手は稼働音を頼りにしていることが明らかになった。また、競技中において、適切な聴覚支援により視覚の負荷および交感神経の働きを軽減できることを示唆できた。
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