本研究では,多様性を生み出す能力を明らかにするために,シャーレ上に培養した神経回路において,どのようにして静的な神経回路構造から動的な活動パターンが生じるかを調べた.特に,培養神経回路によるリザバー計算を考えたとき,培養神経回路のリザバーとしての特徴を明らかにした.神経回路が自発活動で時空間パターンの再現性と多様性を両立するメカニズムとして,神経回路に部分的な神経集団が存在し,部分集団単位で逐次的に活動伝達することで安定性を確保し,かつ自律的な内部状態依存で部分集団間の関係が変化することで多様性を両立するという仮説を立て,その検証を行った.次元削減法で部分神経集団の活動を抽出すると,分散培養神経回路は共通した部分神経集団を用いて異なる時空間パターンを再生することが示された.さらに,類似したパターンが連続して再生されることから,連続的な内部状態依存で時空間パターンが出力されることを示唆した.次に,分散培養神経回路が自己組織的に自発活動に創りだす時空間パターンが記憶の座としての役割を持つか明らかにするため,分散培養神経回路に電気刺激を加えて同期発火を誘発し,自発同期活動パターンとの類似性を調べた.神経回路は自発活動で幾つかの再現性ある時空間パターンを出力し,誘発された同期活動の時空間パターンはその一つと類似した.すなわち,分散培養神経回でも自発活動の時空間パターンが記憶の座としての役割を果たす可能性が示された.分散培養神経回路は予め自己組織的に創りだした内部状態に対して,外部入力を投射して表現するとも言える.
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