研究課題/領域番号 |
16K14192
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 規泰 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (70436591)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 昆虫 / 飛行 / 平衡感覚 / ジョンストン器官 / 羽ばたき飛行 |
研究実績の概要 |
本研究課題を遂行するためには,平衡感覚を喪失したスズメガが,どのような過程を経て姿勢が不安定化するのかを明らかにする必要がある.従来の知見では,触角切除による平衡感覚の喪失により,飛行が不安定化しホバリングが難しくなるなど,定性的な観察に限られていた.そこで本年度は,スズメガの触角を切除し,平衡感覚を失わせた状態で自由飛行の運動解析を行い,その影響の定量的な評価を行った. 再現性のある行動を解析するために,600 mm立方のアリーナを製作し,人工花の前でホバリング(空中停止)をしながら吸蜜する行動を発現させた.照明や昆虫の取り扱いの改善により,安定的にホバリング飛行が発現できるようになり,2台の高速度カメラで十分な分解能で運動を撮影することに成功した.実験の結果,先行研究や当初の予想と異なり,触角を切除した後も花の前でホバリングが可能であることが明らかになった.さらに詳細な運動解析を行ったところ,飛行が可能な個体では,体のピッチ角を低下させ羽ばたき周波数を増加させるなど補償と考えられる行動が認められた.さらに,胴体および頭部のロール回転が頻発したことから,平衡感覚は飛行制御だけでなく,頭部の運動制御にも用いられ,視野を安定化させる役割を持つことが明らかになった.一方で,頭部のロール回転が胴体の回転に先行したことから,この回転は姿勢が不安定になることによる受動的な回転ではなく,スズメガ自身が能動的に行うものであると考えられる.この機能については,ジャイロ器官をもつ頭部を回転させることで,触角切除によって弱められた胴体の平衡感覚入力のゲインを高めていると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再現性のある自由飛行実験方法を確立するとともに,平衡感覚を喪失してもホバリング飛行が可能であるという新奇な知見が得られたため.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得た行動実験方法やデータ解析手法を用いて.腹部や翅の筋肉の電気刺激による運動の変化を解析し,人為的な姿勢の安定化の実現を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の根幹となる平衡感覚除去後のスズメガの自由飛行を解析したところ,先行研究で示唆された胴体のピッチ方向の変化だけでなく,ロール方向,さらには視野の安定に必要な頭部のロール制御にも変化が認められた.このことは,平衡感覚による姿勢制御について,視覚との統合も視野に入れた解析の必要性を示すものであり,平成29年度はその解析に専念した.そこで研究期間を一年延長し,この知見の学会・論文発表と当初計画の完遂のために,未使用分の予算を使用する.
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