本年度は昨年度に引き続き,触角除去による平衡感覚の喪失と視野の安定性の関係を明らかにするために,飛行実験を継続した。 スズメガ触角基部のジョンストン器官は,羽ばたき飛行に伴う受動的な触角の振動を受容することで,胴体の運動によるコリオリ力を検出し,平衡感覚を担っていることが報告されている。一方本研究では,切除直後は安定を保てなくなるものの,おおむね1時間以内でホバリング飛行も可能になることを示した。その一方,切除後には頭部が一定の周期でロール振動し,平衡感覚の喪失が視野の安定に関与していることを示した。本年度は,昨年度不十分であった「切除後に人工触角を取り付ける」条件の実験を追加し,この操作により頭部の安定が人為的に回復することを確認した。これらの研究成果を,オーストラリア・ブリスベンで開催された国際神経行動学会議にて発表し,多くの研究者と議論する機会を得た。 また,人工花の前で高い再現性でホバリングさせるための実験条件を整理した。個体は羽化後数日で摂餌行動をするが,常温ではそれに至る期間に翅を損傷することが多い。15℃の低温で活性を下げ,7-10日程度絶食させた個体では供試個体の半数以上で常温のアリーナ内の人工花に対してホバリング飛行と口吻の伸展を示した。ホバリング飛行は,羽ばたき運動を撮影する際に,複数の高速度カメラの視野内に収める上で好都合であり,今後の飛行の解析に有用な実験ノウハウを得ることができた。
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