本研究では,高い現実感と訓練効果が得られる微細手術シミュレータの実現を目指し,ニワトリ胚を透明人工殻内で長期培養しながら,胚に加わった力を外部から計測する方法を確立することを目的とする.本年度は以下のような研究を行なった.
マーカ作成方法の検討:作製した位置決めシステムとマイクロツールを用いて,実際に培養を行なっているニワトリ胚の周囲にマーカを作成することを試みた.実際にはサーモグラフィで温度モニタリングを行いながら局所熱刺激を白身に加えることにより当初目標としていた最小で100ミクロンサイズで白身を硬化させることに成功した.また,形状のバリエーションとしても球形状やライン(線)状のマーカを作成できることを確認できた.一方で,作成後にヒータの先端に白身が凝固して付着してしまうという問題が生じた.この対策として,高温かつ短時間で白身を瞬時に凝固させる方法を新たに開発した.この場合,たんぱく質が固着してしまう問題は解決できたものの,この方法では表面の白身の加工には適しているものの,深部の白身のみを硬化させることが難しいということも確認できた.今後は,CO2レーザーを用いた白身硬化方法も検討していく予定である.
力センシングの検討:力センシングの基本原理を検討するために,透明人工殻の上面からステレオカメラによって撮影し,ニワトリ胚に力学操作を加えた場合のマーカの位置変化を計測することで,マーカ移動ベクトルの推定を行なうことを試みた.結果として白身マーカの移動を画像処理によって検出した際の誤差が数100ミクロン程度と大きく,現状ではマーカの変形ベクトルを正確に推定するのが困難である.今後は,マーカ自体を大きくしたり,画像中のノイズ除去処理を行うことで計測制度を向上させる予定である.
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