研究課題/領域番号 |
16K14202
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 周司 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60063806)
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研究分担者 |
前田 真吾 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (40424808)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メカトロニクス / ペーパーメカトロニクス / 紙ロボット / 印刷 / プリンテッドロボット |
研究実績の概要 |
本研究は,市販のインクジェットプリンタを用いて紙に折り曲げ図,アクチュエータ・回路・バッテリーを印刷し,立体構造形成から駆動までの全てを行う紙ロボットを実現することを目的としている.これまでに、印刷によって立体構造を自律的に構成することおよび機能性インクによって紙が局所的に膨潤することで屈曲するアクチュエータの作製に成功しているが、本年度は、紙ロボット実現のための自律駆動メカニズムの開発と,立体構造生成のための印刷手法の確立に注力した.特にアクチュエータと回路を実現する機能性インクの吟味と目的構造と印刷パターンの関係を解明し,ペーパーメカトロニクスの要素技術を確立することを目指して研究を進めた.. 印刷法を用いた構造形成については,印刷パターンの検討に加えて,あらかじめ切込みを入れた紙による自動立体構造形成手法を確立した.印刷機と同様に操作できるカッティングマシンで紙を切るプロセスを導入することで,従来の立体構造よりも多様な構造の実現が可能となった.また、コイルの印刷とその性能の検証を行い,さらにアクチュエータの駆動を行う電鈴機構を作るための印刷パターンの設計について研究を行った.コイルに関しては,巻き数・線幅・間隔などのパラメータを加味した上で,使用する電源から得られる最大磁力を理論的および実験的に検討した.磁力はコイルに流す電流の量に依存するため,紙面上に印刷した導線の抵抗値を減少させる方法の検討も必要になる.電鈴機構の展開図の設計に関しては,適切な構造を設計することで,直流電流源から外部に設置したネオジム磁石と相互作用させることによって,23分間自励振動を誘起することに成功した.さらに,電鈴機構とは別に,熱アクチュエータを用いた自励スイッチング機構についても検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,紙に切込みを入れて効果的に印刷パターンによる構造生成を行う手法の検討と,コイル印刷による電鈴機構の設計開発を行った.進捗度としてはおおむね計画時の想定通り結果を得た.特に印刷電鈴機構は,本研究において重要な考察事項であったが,実験を繰り返すことで自励振動を引き起こすことに成功した.今後は機構をモデル化することで,自励振動を誘起するために重要なパラメータの探索を行う。 並行して進めていた,立体配線基板の開発も終了した.従来,立体配線基板は大規模な装置,複数の手順を踏んで作製されることが多かった.そこで我々は,1枚の紙面上に構造と配線を印刷することによって,立体配線基板を作製する手法を開発した.具体的には,1枚の紙に印刷することで構造と配線を構成する手法を開発した.銀ナノ粒子インクが描画されたパターンが配線となり,構造形成用インクで描画された線に沿って紙が自発的に折れ曲がることによって構造が形成される.これらのインクは,通常のインクジェットプリンタのカートリッジに充填されているため,小規模な装置で簡単に作製することができる.銀が印刷された部分についても,構造形成後も導電性が確保されていることも確認できた.以上により,電鈴機構を印刷法で作製することが可能になった. 電鈴機構の製作実験では,従来とは異なる種類の紙を用いていたため,これまでの成果を総合して立体配線基板を用いたメカトロニクスの手法の確立が必要である.また,電鈴機構の駆動実験では,磁力の強いネオジム磁石を外部に設置していたため,ネオジム磁石の紙面上への印刷を検討している.薄膜の磁性体に対する着磁法が重要な検討課題である.また、磁力を用いない手法の検討を始めるなど新しい可能性も開けている.
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今後の研究の推進方策 |
印刷による構造生成に関しては,印刷する紙質の最適化の問題は残されているものの,主要な課題は解決できたと考えている.今後はまずは立体配線基板の作製法を応用した,印刷自励機構の開発を目指す.立体基板の配線の抵抗値は,プロトタイプで用いた配線の抵抗値と異なるため,電気的・構造的特性値を考慮に入れて開発を行う.作成時の熱処理についても最適化できていないため,温度や湿度を考慮に入れた実験解析を行うことで,配線の抵抗率を減少させる.また,印刷幅を太くするなど設計を工夫することによって抵抗値を調整することは可能である. 並行して,磁性体の印刷を進める.プロトタイプには磁力の大きなネオジム磁石を用いたため,ネオジム磁石の印刷を試みている.しかし,ネオジムは磁化に必要な磁界が比較的大きいため,磁化させることが難しいことから他の可能性も検討する..さらに,代替法として,電熱によって体積が変化する熱応答性材料を電磁石の代わりにする実験も行う.電気熱アクチュエータの開発は以前に行っているため,配線基板上に同様の処理を施すことによって作製できると期待している.磁性体・熱応答性材料いずれにしても,電気系と機械系が結合することで自励振動するメカニズムを創出できると考えている. 本研究のまとめとして,印刷による多足駆動メカニズムを確定し,ロボット本体の立体構造形成と合せて,印刷のみによる紙ロボットを製作し自律歩行実験を行い、ペーパーメカトロニクスの可能性を実証することを計画している. 完全自律型のロボットとするにはエネルギ源の印刷による実装という課題が残っている.これについてはキャパシタの印刷による可能性を確認する予定であるが,紙面印刷でエネルギ密度を高めるのには限界があることから,駆動時間が限られるのはやむを得ないと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での学会発表を行わなかったこと,および謝金が不要な範囲で実験などが出来たことが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
材料部品など消耗品の支出が大きくなると考えられるので主に物品費に使用する計画である.また、学会誌発表に係る費用も増えることを予想している.全体として次年度請求額に加えて適切に使用する。
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