研究課題
本研究の目的は、直流超伝導ケーブルによる電力系統のエネルギー貯蔵機能の創出である。環境への意識の高まりと電力自由化の流れから太陽光や風力を原資とする再生可能エネルギーの大量導入が期待されるが、これらの発電量は天候による時間変化が大きく、設備容量や周波数変動の問題から、現状の電力系統の受け入れ許容量はごく限られたものになっている。この観点から、発電量の変動を吸収できる電力貯蔵技術の確立が極めて重要な課題となっている。そこで本研究では、新しい超伝導ケーブルを用いた直流電力網を提案することにより、電力系統自体がエネルギー貯蔵機能を有する次世代電力ネットワークの実現可能性について検討する。平成28年度は、以下に取り組んだ。(1) エネルギー貯蔵機能付き超伝導ケーブルの試作:巻芯にコイルのように超伝導線材を密に巻き付けることで、エネルギーを磁気エネルギーとして貯蔵するという新しいコンセプトに基づき、小型の超伝導ケーブルを試作した。評価の結果、もくろみ通り、電気抵抗がゼロでインダクタンスのみを有し、損失なくエネルギーを貯蔵できることを確認した。(2) エネルギー貯蔵機能付き電力系統の機能実証:試作した超伝導ケーブルを、リアルタイム電力系統シミュレータを用いたハードウェア閉ループ試験(HILS)に適用することで、エネルギー貯蔵機能付き電力系統の実規模相当の動作を再現した。これにより、再生可能エネルギーによる電力の供給がとまっても、しばらくの間はケーブル自体に蓄積されたエネルギーによって、負荷への電力供給が問題なく行えることを実証した。
2: おおむね順調に進展している
上述の2項目は、当初の予定のとおりであり、本研究は順調に進んでいると認められる。特に、超伝導線材を用いるために電気抵抗がゼロとなって損失がないと一見認識されるかもしれないが、エネルギーの出し入れには電流の変化を伴うために、交流損失が発生することが懸念材料であった。試作した超伝導ケーブルは設計通りのインダクタンスを有し、またHILSの試験によって蓄積したエネルギーを損失がほとんど無視できる状態で放電できることを確認できたことは大変大きな成果である。加えて、試作したケーブルは小型であるものの、HILSで想定した系統の挙動の規模はMW級であり、規模調整によって実規模相当の機能を模擬できたことは、他に類を見ない成果である。以上により、当初の目論見通りに、順調に成果が得られているものと考えている。
平成28年度は、独創的なアイデアによる新規機能を実証するに至った。平成29年度は、超伝導ケーブルと系統との相互作用をさらに詳細に調査し、次世代電力系統の最適な形態を提案していくことを目指す。具体的には以下に取り組む。(3) エネルギー貯蔵機能付き電力系統の最適化と波及効果の検証:1年目に引き続き(1)(2)を繰り返すことによって、対象のマイクログリッドに最適な超伝導ケーブルとその運用形態を検討する。特に、事故時の現象まで項目(2)の手法によって評価することで、超伝導ケーブルの電流容量とインダクタンスの最適化ならびに系統内接続構成の最適化を行い、エネルギー貯蔵機能付き電力系統のマイクログリッドモデルとして提示する。さらに、上記がハードウェアを使用せずにシミュレーションのみで表現できるようになれば、本研究で提案するエネルギー貯蔵機能付き超伝導ケーブルのモデルが構築できたことになる。本モデルを用いて、マイクログリッドにとどまらずに検討範囲を広げ、本研究の成果の波及効果を提示する。究極の形態としては、地球規模の電力系統を直流超伝導ケーブルでループ状に接続するものとなり、そのエネルギー貯蔵機能によって、平準化された世界規模の再生可能エネルギーの利用(サハラ砂漠の太陽光発電、ブラジルの水力発電など)と負荷変動を気にしないエネルギー消費が可能となる。
ほぼ予定どおりに使用できたと考えるが、当初の予定よりも冷媒の使用量が少なかったため、残額が生じた。具体的には、試作した超伝導ケーブルの損失が想定よりも小さかったため、蒸発する冷媒の量が少なかったためであり、ポジティブな理由によるものである。
次年度の試験の回数を1回程度増やし、超伝導ケーブル運用の最適化に必要な情報を当初予定より多く集めることで対応する。
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IEEE Transactions on Applied Superconductivity
巻: 27 ページ: 6603004
10.1109/TASC.2016.2641238
巻: 27 ページ: 8001404
10.1109/TASC.2016.2639278