研究課題
本研究は、これまで学術的な物性研究の興味の範疇に留まっていたグラファイト層間化合物のデバイス応用に向けた、絶縁基板上へのグラファイト層間化合物の集積化技術の確立を目的としている。独自に開発した金属蒸気を触媒として用いたCVD法を用いて絶縁基板上に直接成膜した厚膜グラファイトに各種原子を層間挿入した層間化合物基板を作成し、電気特性などの物性を評価する。更に、層間化合物を用いた新規デバイスを試作し層間化合物を用いた新しいデバイス応用を実証する。今年度は、グラファイト膜の仕事関数のグラファイト膜成膜手法依存性を調査した。グラファイト成膜手法は大気圧熱CVD、減圧熱CVD、プラズマCVDの3種類で行った。大気圧熱CVDとプラズマCVDでは、初期のグラファイト膜の仕事関数が、減圧熱CVDと比較して高いことが分かった。また、真空加熱による仕事関数の低下も減圧熱CVDが顕著であり、大気圧熱CVDとプラズマCVDでは仕事関数の低下はわずかであった。これらのグラファイト膜を用いて、グラフェン/酸化膜/半導体積層構造の平面型電子放出デバイスを試作したところ、減圧熱CVDを用いて試作した平面型電子放出デバイスでは、電子放出効率が約50%まで向上することが分かり、従来の平面型電子放出デバイスと比較して1万倍の特性向上を達成した。減圧熱CVDによって成膜したグラファイトは大気圧熱CVDやプラズマCVDで成膜したグラファイトと比較して、膜厚分布にも優れ、結晶性も良好であるため、黒鉛層間化合物形成のための基材として適していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
グラファイト層間化合物の基材となるグラファイト基板成膜手法を確立することができた。更に、この手法を用いてグラファイト/酸化膜/半導体積層構造の平面型電子放出デバイスを試作し、電子放出効率を従来素子と比較して1万倍以上向上することができた。上記により本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
今後は、減圧熱CVDによって成膜したグラファイト膜へ、セシウム等のアルカリ金属を層間挿入することで、グラファイト層間化合物基板の作製を試みる。グラファイト層間化合物を用いた平面型電子放出デバイスを試作し、仕事関数制御により更なる電子放出効率の向上を目指す。
当初費用として計上していた共同利用施設の分析装置の利用料が、利用施設の都合により無料となったため残額が生じた。今年度発生した残金は次年度の研究に必要な消耗品の購入に有効利用する。
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Journal of Vacuum Science & Technology B, Nanotechnology and Microelectronics: Materials, Processing, Measurement, and Phenomena
巻: 36 ページ: 02C110~02C110
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Technical digest 30th International Vacuum Nanoelectronics Conference
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信学技報
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