研究課題/領域番号 |
16K14226
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 宗俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (40432439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化鉄 / クラスターグラス |
研究実績の概要 |
クラスターグラスを用いた環境発電素子の創製に向けて、今年度は、Fe2+/Fe3+の電荷(イオン比)の勾配を人為的に導入した酸化鉄薄膜の作製実験を実施するとともに、得られた薄膜の電気磁気特性を評価した。薄膜成長にはパルスレーザー堆積法(PLD法)を用い、ターゲットを二段階で切り替えて実験を行った。まず、第一段階では、スピネル型フェライトCoFe2O4をターゲットに用い、α-Al2O3(0001)単結晶基板上にCoFe2O4の単結晶薄膜を成長させた。次に、その上からSiを含んだCoFe2O4のターゲットを用いてPLD法により薄膜を堆積させた。基板温度を700℃以上に上げると、製膜中にFe, CoとSiが相互拡散し、薄膜全体にSiが均一に分散したSi置換CoFe2O4薄膜が得られることが分かった。また、ターゲットに含まれるフェロシリコンが還元剤としてはたらき、得られた薄膜では、Fe2+/Fe3+の価数揺動状態が実現していることをX線光電子分光によって確認した。また、可動マスクの導入したコンビナトリアルPLDシステムを用いることにより、Fe2+/Fe3+イオン比の勾配をつけた結晶薄膜が作製できることを確認した。次に、酸化鉄ヘテロ接合型の発電素子作製に向けて、界面でのFeイオン価数変化を抑制するためのキャップ絶縁層の検討を行った。Al2O3、Y2O3、MgO、Ga2O3、SrTiO3、MgAl2O4等の酸化物絶縁体の極薄膜を酸化鉄薄膜上に形成し、表面のFeイオンの価数を評価した結果、Al2O3とGa2O3を堆積した場合にFe2+の酸化が抑制されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高効率光・熱電変換素子の創製に向けて、独自の手法(二段階PLD法)によって、Fe2+/Fe3+のイオン比の空間分布を人為的に導入した酸化鉄単結晶薄膜を作製することに成功した。このイオン比勾配を制御し最適化することによって、室温で大きな光・熱電変換特性を実現させることができると考えられる。また、薄膜表面のFeイオンの酸化を防止するためのキャップ層を成長させることができた。これは次年度以降の酸化鉄ヘテロ接合型の素子作製実験の進展に繋がる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
母体材料(スピネル型フェライト)の組成やSi添加量および電荷勾配を最適化することにより、室温以上の酸化鉄薄膜試料の磁気転移温度・グラス転移温度を実現することが課題となる。また磁場印加中での光・熱電変換特性の評価を定量的に行うためのシステムの構築を2017年度7月までに完了する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた、光熱電変換特性評価システムの試料ホルダが自作できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
単結晶基板の購入費に充当する予定である。
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