本研究では、第3世代のスピン軌道トルク磁気抵抗メモリ(SOT-MRAM)の実現に向けて、高い電気伝導率および大きいなスピンホール角を両立できるトポロジカル絶縁体として、BiSb合金に着目し、そのスピン注入源としての性能評価を行う。 そのために、まず、BiSbの高品質な結晶成長技術を開発し、その電気伝導率がMRAMに使われる磁性金属と同等な高い電気伝導率(σ~2.5x10^5 S/m程度)を有することを確認した。さに、BiSbのスピンホール効果を評価するために、BiSb/垂直磁化膜MnGaのヘテロ接合の結晶成長を試みた。結晶成長条件を最適化し、BiSb(001)/MnGa薄膜ヘテロ接合の作製に成功した。 次にMnGa/BiSb(012)のヘテロ接合を作製し、BiSbのスピンホール効果およびMnGaに作用するスピン軌道トルクによる磁化反転を行った。その結果、常温において超強大なスピンホール効果(θsh~52)を観測し、さらに非常に低い電流密度(1.5 MA/cm^2)で3 nmのMnGa薄膜の磁化反転に成功した。この値は従来に使われた重金属/MnGaの磁化反転に必要な電流密度よりも30~100倍小さい。BiSbのスピンホール伝導率σsh~1.3x10^7 (hbar/2e)S/mに達し、Ptよりも30倍、Bi2Se3などの他のトポロジカル絶縁体よりも100倍大きい。BiSbをナノスケールのSOT-MRAMに適用する場合、STT-MRAMよりも書き込み電流を1桁、書き込みエネルギー2桁以上削減でき、書き込み速度も10倍速くできると分かった。 最後に、BiSbの結晶成長モードを調べるために、様々な面方位のGaAs基板の上に、BiSbの結晶成長を行った。その結果、BiSbの結晶成長が基板の対称性ではなく、表面の終端原子の種類と再構築表面パターンに強く依存したことを明らかにした。
|