研究課題/領域番号 |
16K14229
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
早川 泰弘 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (00115453)
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研究分担者 |
下村 勝 静岡大学, 工学部, 教授 (20292279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 色素増感太陽電池 / 触媒作用 / カーボン系材料 / 有機皮膜材 / 二酸化チタン / 硫化物 / 複合結晶 |
研究実績の概要 |
クリーンで無尽蔵な太陽光の有効利用は、CO2排出量削減や持続可能な低炭素社会実現に不可欠であり、低価格で高効率な太陽電池の開発が望まれている。色素増感太陽電池(DSSC)は低価格、大面積でフレキシブル、カラー化が可能などの特長を有しており、次世代太陽電池として有望であるが、さらなる低価格化と光電変換効率向上が課題である。課題は、白金被覆フッ化物添加酸化スズ電極の代替電極の開発と効率的な光吸収と電子移動を有する光半導体電極の作製である。本研究の目的は、DSSCの対極として利用できる新規触媒の開発である。2017年度は触媒効果を有する様々な材料の開発を行った。水熱合成法を用いて、カーボン系材料を添加したメゾポーラス二酸化チタン(TiO2)を合成した。これを光陽極とし、N719色素を用いて色素増感太陽電池を作成し、特性評価した。市販のP25(TiO2)を用いた場合の光電変換効率は2.4 %であったが、5.4 %に向上した。これは、カーボン系材料を添加により、色素吸着が大きくなり、かつ励起電子と色素との再結合が抑制され、寿命が長くなったためである。また、有機皮膜材としてクエン酸を添加し、合成時間を5、15、25、45時間と変化させた。15時間合成した粒径14 nmのメゾポーラスTiO2を用いてDSSCを作製した結果、光電変換効率7.66 %が得られた。さらに、バンド構造が異なるTiO2/ ZnS、MoS2/ZnS及びCuS/ZnSナノ複合体合成に成功し、ナノ複合体の構造・光学的特性評価及びメチレンブルー(MB)色素を用いて光触媒効果を調べた。これらの中で、CuS/ZnSは紫外―可視光を吸収できることや光励起した電子と正孔が分離するため、高い光触媒効果を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーボン系材料を添加したメゾポーラス二酸化チタンナノ結晶合成に成功し、市販のP25(TiO2)を用いた場合よりも光電変換効率の向上を確認した。変換効率向上の要因として、カーボン系材料を添加による色素吸着の増大及び励起電子と色素との再結合の抑制を明らかにした。クエン酸を有機皮膜材として用いてメゾポーラス二酸化チタンナノ結晶合成に成功し、光電変換効率7.66 %を得た。さらにTiO2/ ZnS、MoS2/ZnS及びCuS/ZnSナノ複合体合成に成功し、CuS/ZnSの組み合わせにより光触媒効果の向上が得られた。要因として吸収波長領域の拡張と電子―正孔の分離が大きく寄与していることを明らかにした。これらは、新しい触媒の開発に関する成果である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 窒素添加グラフェン巻く上への硫化ニッケル/酸化ニッケルナノ結晶合成と太陽電池特性評価する。修正ハマーズ法で窒素添加グラフェンを作製し、さらに水熱合成法を用いて、硫化ニッケル/酸化ニッケルナノ結晶を合成し、特性評価する。 (a) 粉末X線回折法による構造解析、(b) 紫外-可視スペクトロスコピー測定による吸収特性、 (c) フォトルミネッセンス測定による発光特性、(d) X線光電子分光測定による電子状態の測定、(e) ラマン測定によるフォノンモード測定、(f) フィールドエミッション走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡による形態測定等の手法で評価する。素増感太陽電池を作製し、光電変換効率を測定し、白金添加対極を用いた場合と比較する。 (2) 二硫化モリブデンナノ結晶合成と太陽電池特性を評価する。クエン酸を有機皮膜剤として用いて水熱合成法により二硫化モリブデンナノ結晶を合成し、特性評価する。スプレー法を用いて、二硫化モリブデンをフッ化添加酸化スズ(FTO)基板に付着させた後、アルゴン雰囲気中で熱処理する。熱処理条件(温度、時間)をパラメータとし、最適な条件(FTO基板との結合性、厚さ)を検討する。色素増感太陽電池を作製し、光電変換効率を測定し、白金添加対極を用いた場合と比較する。 (3)水熱合成法を用いて、Ni-Mo-S や Cu-Mo-S系の新規触媒材料を開発する。また、酸化還元グラフェン膜上にNi-Mo-S や Cu-Mo-Sナノ結晶を成長させる。電気化学測定で触媒効果を評価する。また色素吸着量の測定やインピーダンス法を用いた電気伝導度の測定を行い、構造の最適化を図る。これらを対極とした色素増感太陽電池を作製し、白金添加対極の光電変換効率と比較する。
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