研究課題/領域番号 |
16K14231
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安藤 裕一郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50618361)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピントロニクス / トポロジカル絶縁体 / 熱電変換 / 熱スピン変換 |
研究実績の概要 |
本年度は熱スピン変換素子に関する基礎学理の理解を中心に行った.トポロジカル絶縁体材料として,BiSbTeSe,BiSeなどのビスマスセレン系材料,BixSb1-xなどのビスマスアンチモン系材料,SnTeなどのトポロジカル結晶絶縁体を対象として,表面状態におけるスピン流電流変換機能を検討した.本機能の良し悪しが熱スピン変換素子の特性を決めることが予想される.特にBiSb系については,Sb組成を0%(純ビスマス,非トポロジカル相,半金属)から30%程度まで変調し,スピン流電流変換効率を検討した.半導体のトポロジカル相はSb組成7%から22%で出現する.Sb組成の増加とともにスピン流電流変換効率は向上したが,非トポロジカル相からトポロジカル相へと変化する領域においても変換効率の顕著な変化は得られなかった.2キャリアモデルを用いてキャリアの移動度を評価したところ,Sb組成の増加と共に移動度は減少していることが確認された.従ってSb組成の上昇に伴うスピン流電流変換効率の緩やかな向上はトポロジカル表面状態の寄与より,キャリアの運動量緩和時間の減少に起因することが示唆された.Biでは強いスピン軌道相互作用に起因し,D'yakonov-Perel'機構によるスピン散乱が支配的であることが分かっている.この場合,キャリアが運動量緩和の前にスピンのコヒーレンスが失われてしまい,スピン流電流変換の大きな向上は望めない.Sbがランダムに配置されることにより,キャリアの散乱機会が増え,その結果としてスピン流電流変換が増えたものと解釈される.即ちトポロジカル表面状態でのスピン流電流変換よりはバルクの逆スピンホール効果が支配的と言える.バルクの変換の極性は表面とは反対であることが知られている.より効率的な熱スピン流変換では,バルクの寄与の抑制が重要であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初期では実験装置の改造立ち上げが必要であり,それらに多くの時間を割いた. 今後必要となる装置はほぼ立ち上げが完了しており,来年度,再来年度に必要となる改造はほとんどない.熱スピン流変換実験自体は若干の遅れがあるが,装置の立ち上げが前もって完了していること,および今後の熱電変換でも重要となる設計指針を得ることができたことなどを総合的に鑑みると,概ね順調であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた設計指針をもとに,トポロジカル絶縁体を選定し,熱スピン流変換の実証実験およびヘテロ接合熱電変換素子の実験へと移行する.熱スピン変換については強磁性体とトポロジカル絶縁体の界面にトンネル絶縁膜を挿入し,検出感度の向上を図る.
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