トポロジカル絶縁体の熱電特性では熱により生成した電流をトポロジカル絶縁体の表面状態においてスピン流に変換する.即ち,表面状態に注入される電流からスピン流へ変換する効率が極めて重要なパラメータとなる.本年度はスピンバルブ素子を用いて,トポロジカル絶縁体におけるスピン流―電流相互変換効率を定量的に評価した.表面状態では2次元電流が3次元スピン流に変換されるか,又はその逆過程となるため,変換効率は長さの単位を有する.トポロジカル絶縁体の表面状態ではその長さが10nm以上と他の二次元材料と比較して極めて長いことが判明した.熱から電流を生成しスピン流へと変換する際にも極めて高いゼーベック係数と極めて高いスピン流-電流変換効率が期待されることから極めて高い熱ースピン流変換効率が期待できる. 実際に熱からスピン流への変換を実証する際,一般的にはロックイン法が用いられる.その場合,電流を印加しジュール熱を発生させ,その熱勾配により生成された電流を表面状態に注入し変換実験を行う.本手法は幅広く用いられているが,大きな欠点があることが判明した.それは電流-電圧特性に非線形性がある場合には印加した電流の影響が変換後の信号に重畳し,熱からスピン流への変換の精密評価を阻害することである.実際,トポロジカル絶縁体では電流-電圧特性が非線形性を示しており,本問題が顕在化していることが判明した.そこで直流測定とロックイン法を組み合わせた手法を開発し,これにより電流の非線形性の影響を排除できることを示した.
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