研究課題/領域番号 |
16K14232
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船戸 充 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70240827)
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研究分担者 |
川上 養一 京都大学, 工学研究科, 教授 (30214604)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 光デバイス |
研究実績の概要 |
本研究では,基板と半導体界面に弱い結合しか持たない系での結晶成長およびデバイス応用に向け,具体的には,ScMgAlO4基板上の窒化物半導体を対象とし,有機金属気相成長による結晶の作製法と,新しいデバイス技術を確立することを目標としている 結晶成長に関して,有機金属気相成長法によりGaNの成長を試みた.通常用いられるサファイア(0001)面と同一条件ではピットが形成されてしまうが,低温緩衝層の膜厚および高温成長層の成長温度の調整によりピットフリーのGaN薄膜を得ることに成功した.この要因の一つとして,基板の熱伝導率の差が成長条件の微妙なずれとなることを明らかにした.X線回折による結晶構造評価によると,同一条件で作製したサファイア基板上GaNよりも刃状転位が減少しており,弱い界面結合力がポジティブに働いているものと考えている. このGaNに対してSiおよびMgを添加し,それぞれn,p型伝導制御を試みた.予備実験として,基板材料の一つであるMgがGaN膜中に混在することが質量分析によりわかった.そのため,外部からの不純物添加に際にはこの残留Mgを考慮した条件設定が重要であった.最適化の結果,n,pとも2e18/cc程度のキャリア密度を得た.さらに,GaN/ScMgAlO4上にInGaN量子井戸を作製した.発光効率はサファイア基板上と同等であった. 以上の成果を踏まえ,ScAlMgO4基板上に可視発光ダイオードを試作した.近紫外から緑色領域にかけての試作に成功した.発光強度は同一条件で作製したサファイア上LEDよりも大きく,このエピタキシーが発光素子の作製に向けて高いポテンシャルを持っていることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ScAlMgO4結晶は,サファイアと比べて熱伝導性が悪いために温度設定の微調整が必要であった.また基板表面の分子ステップの高さが,ScMgAlO4基板上では概ね4倍であり,そのステップの影響を弱めるために厚めの低温緩衝層が必要であった.これらの検討を通じて,これまで用いられてきたサファイア基板上と比べても遜色のないGaN結晶がScAlMgO4上に得られるようになった.得られたGaN中の刃状転位密度はサファイア上GaNと比べても小さく,ScAlMgO4の(0001)面の劈開性に起因した,弱い界面結合力がポジティブに働いているものと考えている. また,基板材料のMgが気相中に蒸発し,それがGaN膜中に取り込まれるため,意図しないMgが膜中に存在することが分かった.これを考慮したうえで成長条件を設定することが伝導型制御において重要であった.特にMg添加によるp型伝導型制御に関しては,過剰なMg添加はむしろn型化を引き起こすことが知られており,外部から意図的に添加するMg量の微調整が,伝導型制御のためのキーポイントであった. これらの結果を受けてLEDの試作にも成功しており,本研究の実施により基礎的な技術が構築されたと考えている.また,得られた成果は対外的に注目を集めており,窒化物半導体分野で最大の国際会議12th ICNS (Strasbourg, France, July, 2017)へ招待されている.
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今後の研究の推進方策 |
ScMgAlO4基板の(0001)面での劈開性を利用し,作製した多層構造を基板成長層界面で剥離してデバイス化することを検討する.このデバイス自体,フレキシブルなデバイスとして利用できると考えられる.さらに,剥離したSCAM基板上に再度結晶成長し,同じプロセスによりLED化する.成長の繰り返しによりLED素子特性がどのように変化するのかを検討する.もし,素子劣化が見られないならば,基板の再利用による省資源化へつながると期待される. また,SCAM基板はIn組成17%のInGaNと格子整合する.この特長を活かして,SCAM上にGaNではなくIn0.17Ga0.83Nを母体として,InGaN量子井戸(In組成17%以上)を発光層とする構造を作製することを考える.InGaNの高In組成化は,発光の長波長化にとって必須であるが,InNとGaNの格子定数の差が大きいため,GaNを母体とする限り高In組成InGaN発光層の格子緩和による劣化は避けられない.これに対して,In0.17Ga0.83Nを母体とできれば,現在問題となっている緑色より長波長側での発光効率の向上に寄与できるのではないかと考えている.結晶成長の基礎的な振る舞いの精査,不純物添加など要素技術の開発によりLED化を目指す.
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