研究課題/領域番号 |
16K14233
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 康文 大阪大学, 工学研究科, 教授 (10181421)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 希土類添加半導体 / 太陽電池 / 波長変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、母体により光吸収されたエネルギーが希土類イオンに効率よく輸送される希土類添加半導体を新しい波長変換材料として位置づけ、その機能を明らかにすることを目指している。得られた成果は下記の通りである。 【課題1】Tm,Yb共添加条件の最適化: 独自に開発したスパッタリング援用有機金属気相堆積法によりTm,Yb共添加ZnOを作製した。スパッタリングターゲットには、Yb混合比を変化させた3種類の混合ターゲット(Yb2O3:Tm2O3=1:1、1:2、1:5)を用いた。Tm濃度およびYb濃度のRF電力依存性では、いずれもRF電力とともに添加濃度が増加する傾向が観測された。混合ターゲット1:1を用い、RF電力を変化させることにより作製したすべての試料において、c軸配向したウルツ鉱型ZnOが成長していることが確認された。また、RF電力40 Wにおいて最もチルト分布が少なく、c軸配向性が高いZnO薄膜が得られることが明らかになった。 【課題2】波長変換機能の観測と理解: O2アニール(600℃、30分)を施した試料において、紫外線照射下でYb3+イオンに起因する発光(978 nm)とTm3+イオンに起因する発光(795 nm)の両方を観測することに成功した。このことは、TmイオンとYbイオンへZnO母体の励起を介したエネルギー輸送(間接励起)が生じていることを示唆している。各種混合ターゲットを用いて作製した試料において、TmおよびYb発光の発光寿命を調べた。Tm発光寿命はTm添加濃度が増加するにしたがい、またターゲットのYb混合比が増加するにしたがって短くなることが分かった。一方、Yb発光寿命に関しては逆の傾向を示した。Tm、あるいはYb単独添加試料における発光寿命との比較より、混合比1:1ターゲットではYbイオンからTmイオンへのエネルギー輸送(アップコンバージョン)が、混合比1:5ターゲットではTmイオンからYbイオンへのエネルギー輸送(ダウンコンバージョン)が生じることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々が世界に先駆けて開発したスパッタリング援用有機金属気相堆積法を用い、成膜パラメータの最適化により、高品質なZnO母体の結晶性を損ねることなく、TmやYbの添加を高度に制御できることを明らかにした。また、試料作製に用いるターゲット混合比によりYbイオンからTmイオンへのエネルギー輸送(アップコンバージョン)、TmイオンからYbイオンへのエネルギー輸送(ダウンコンバージョン)の制御が可能であることを見出した。本観測は世界で初めてのものであり、希土類添加半導体を用いた波長変換応用の可能性を示唆する重要な知見である。「希土類添加材料の光学的物性評価」の専門家であるVolkmar Dierolf教授(Lehigh大学、米国)や「波長変換機能評価や太陽電池設計」の専門家であるTom Gregorkiewics教授(Amsterdam大学、オランダ)との共同研究が機能しており、当初の計画が前倒しで進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究課題を継続的に発展させながら、波長変換機能の最適化デザイン、および次世代太陽電池への応用可能性の検証に取り組む。 【課題3】 波長変換機能の最適化デザイン: 平成28年度に得られた、Tm,Ybイオン間の相互エネルギー輸送現象の解明に基づく波長変換機能の理解を踏まえて、より効果的な機能が発現するTmおよびYbの添加濃度、および各イオンの周辺局所構造の最適化を行う。また、現有の積分球を用いた内部量子効率(入射フォトン数に対する出射フォトン数の比)評価装置を用いて、波長変換機能の効率を明らかにする。 【課題4】 次世代太陽電池への応用可能性の検証: 具体的な方策の一つとして、Si太陽電池や多接合型太陽電池の上面に、最適化されたTm,Yb共添加ZnO薄膜を堆積することを検討し、分光感度特性や変換効率を評価する。Tm,Yb共添加ZnO薄膜の膜厚をパラメータとして、波長変換材料としての応用可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関連した共同研究のフィジビリティ・スタデーがスタートし、成形プロセスが異なる各種混合ターゲットをご提供いただいた。
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次年度使用額の使用計画 |
現有のフォトルミネッセンス測定装置を用いてTm,Yb共添加ZnOの発光特性を高精度で測定するために、光学部品を追加購入し、研究進捗を加速させる。
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