研究課題
・化学量組成の薄膜形成が困難であるYbFe2O4薄膜の低温エピタキシャル成長に成功した。超高密度のターゲットの作製、2元ターゲットをプラズマの発光分析を用いて制御する等の方法で組成制御を可能にした。得られた高品質薄膜を用いて、電気伝導特性とその温度依存性、光吸収および光伝導の波長・光照射時間・温度依存性に関して詳細な検討を行った。特に,広い波長範囲で吸収が確認される得られた。また、電気伝導特性は単結晶とほど同程度であり、非化学両論組成の薄膜の物性との比較が可能になった。また、様々な物性評価の結果、ネール点と磁気抵抗との関係を世界ではじめて明らかにした。化学両論からの組成変化によって磁気抵抗の振る舞いが大きく異なり、ネール点の変化に起因するものと推測している。・上記と同様の手法を用いて作製された高品質なYMnO3強誘電体薄膜を用いて、強誘電性分極反転と光誘起電流との相関を詳細に評価した。複雑なドメイン構造を有する強誘電体とは異なり、一軸性強誘電体の利点を生かして様々な評価が可能になり、強誘電体の自発分極の存在によって電界を印可せずに光誘起電流が生じることをが明らかになった。さらに、照射光の波長と光誘起電流との相関をバンド内のd軌道の状態から議論した。さらに光学フォノン由来と思われるフェムト秒光励起反射率の振動構造(5.1THz)の観測に初めて成功した。フェムト秒光励起は強い温度依存性があり、特にネール点以上で大きく減少することも明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
電子揺らぎを有する電子強誘電体YbFe2O4薄膜および一軸性の分極構造を有するYMnO3薄膜ともに従来よりも格段に結晶性の良い薄膜の形成に成功した。その結果、YbFe2O4においては新規な磁気抵抗効果が発見され、その変化はネール点と相関があることが明らかになった。YMnO3薄膜に関しても同様に高品質薄膜によって光誘起電流と強誘電性の自発分極との相関が明らかになった。低温測定が可能になり、光伝導の波長・光照射時間・温度依存性に関して検討を進めることが可能になった。特に,光学フォノン由来と思われるフェムト秒光励起反射率の振動構造(5.1THz)の観測に初めて成功したことは突筆すべきである。このネール点との相関は極めて重大な発見であり今後の発展が期待できる。
1)電子揺らぎを有する電子強誘電体YbFe2O4薄膜の低温成長と光誘起物性:フラストレーション系強誘電体の磁気スピンの秩序に関する理解は格段に深まった。29年度は化学量論組成からの変化と光誘起電流との関係およびその温度依存性を調べる.励起光のエネルギー,測定温度,ポーリングによる分極の状態制御などによって明らかにした光励起キャリアの情報が超高速分光測定時の基礎的なデーターとなるため,極めて重要な検討項目である。2)1.7eV近傍に大きな吸収を示すYMnO3薄膜の作成と物性評価:高速パルス光応答の結果を含めて,フェムト秒ポンプ・プローブ測定とテラヘルツ光を用いた光吸収・電気変換プロセスの測定条件を決定する.「平衡状態におけるテラヘルツ物性計測」のみならず、よりダイナミックな光励起キャリアの計測が可能な新しい測定方法の開発を行う.YMnO3においては,5.1THzに光学フォノンに由来する振動が,0.58THzにマグノンに由来すると思われる振動が確認されている.これらのTHz放射をプローブとしたマルチフェロイック強誘電体の電荷・磁気秩序の電場・磁場印加によるダイナミック計測を行い,新しい物理を探求する。3)コヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波放射と強誘電性自発分極および圧電分極の相関:フーリエ変換パワースペクトルにおけるコヒーレントLOフォノン信号の積分強度を求めて解析を行ない,THzの位相や強度の外部電界依存性を明らかにする。今回取り上げる試料はいずれも磁気秩序と電気分極の秩序を有するマルチフェロイック物質である。ぞれの秩序の電場や磁場そして電磁波に対するダイナミカルな挙動を明らかにする。
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