研究課題
申請者はアルコール触媒気相成長(ACCVD)過程において、超短パルス光(自由電子レーザー:FEL)を共鳴吸収させ、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)のカイラリティをその場成長制御させる全く新しい独創的な手法を開発し、1本のSWNTの中にナノスケール金属/半導体接合を形成することを目指す。さらに、そのナノ接合系を組み込んだ新規のナノ電子デバイスモデルを提案・試作し、期待される超低消費電力・超高速スイッチング特性を確認することも目的としている。平成28年度の成果として、ホットウォール型ACCVD法により、800nmのFEL照射を行いながら面内配向SWNTs成長を試みた。成長密度は約1本/2μmであった。用いた基板はST-cut人工水晶基板である。多波長励起ラマン測定結果により、FEL未照射においては、直径1.07nmおよび1.59nmの金属SWNTsの成長を確認した。FEL照射して成長させた場合、直径約1.1nmの半導体SWNTsの成長を確認した。しかしながら、同時に、1.59nmの金属SWNTsはFEL未照射時と同様に成長した。一連の面内配向した特定のカイラリティ(電気特性)を持つ半導体性SWNTsが成長していることを、mmオーダーの電極間で直接的電気伝導測定によって確認することに成功した。面内配向SWNTsは、単結晶基板の原子配列に沿って成長するため、成長しやすい金属性のカイラリティがある場合、SWNTsの直径制御を見直すために、触媒作製、CVD成長条件を見直す必要があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本申請研究の最も注目すべき特色は、以下の三つの新規性、斬新性に要約される。第一に、SWNTsの物性を決定するカイラリティをCVD成長中にその場制御する新規技術を提案し、その手法を確立しようとするところが挑戦的である。第二は、上記の手法を直接的に適用し、FEL照射条件を変えることによって、1本のSWNT成長時に、金属/半導体接合(Metal-Semiconductor Junction:MSJ)を形成することを目指す点は革命的なプロセスである。第三に、一本のSWNTの中に、任意の場所に所望の長さ、異なる伝導性を示す領域を作り込むことを目指す点は斬新である。平成28年度はホットウォール型ACCVD法により、ST-cut人工水晶基板上において、所望の半導体的SWNTsの選択的配向成長に成功しており、第一の目標をほぼ達成したと考えている。また、その結果に基づき、第二段階であるMSJ形成へ向けた実験に移行するにあたり、実験研究を展開する上での指針がえられ、引き続き計画に沿って研究が遂行されるものと判断できるため。
第一の研究目標である、自由電子レーザー(FEL)照射によるカイラリティ(電気特性)の制御を行うという課題についてはほぼ達成された。しかし、今回の電気伝導測定は測定領域がmmオーダーであったので、今後、より精密な電気伝導特性の評価を行うためにはμmオーダーまで微小化して測定する。また、FEL照射して成長させた面内配向SWNTsは、金属的電気特性を示しており、ラマン散乱でも金属SWNTsの成長を確認していることから、一部金属SWNTsの特性が現れたと考えている。面内配向SWNTsは、単結晶基板の原子配列に沿って成長するため、成長しやすい金属性のカイラリティがある場合、SWNTsの直径制御を見直すために、触媒作製、CVD成長条件を見直す必要がある。今後、より詳細なSWNTs成長最適条件の探索を進める。一方、本研究の第二の目的である、1本のSWNTの中にナノスケール金属/半導体接合を形成するため、まず、カリラリティ制御の効率的実現を行うためのSWNTs作製条件の最適化も図る必要がある。その上で、SWNTsの成長途中においてFEL照射を変える(オンオフ動作)ことによって、カイラリティを変化させる実験的検討に取り掛かる。作製した試料のカイラリティ評価については、従前行ってきた、ラマン分光測定を踏襲する予定であるが、加えて、走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いた、表面構造の微細な組織観察も行う。えられた結果をもとにして、最終的な段階では、一本のSWNTの中に、任意の場所に所望の長さ、異なる伝導性を示す領域を作り込むことを実現させる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
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