研究実績の概要 |
半導体中の電子トラップは各種半導体デバイスの信頼性劣化の要因となっており、信頼性の本質的改善には個々のトラップの位置と性質を知り制御する必要がある。しかしながら個々のトラップを捉えて素子に与える影響を直接的に評価する手段がまだない。本研究の目的は、独自に見いだした金属短針と半導体表面の微小領域容量結合による雑音誘起メカニズムと高い空間分解能をもつ走査プローブ顕微鏡技術を組み合わせた新しい計測系を確立し、単一電子トラップを評価する手法を開拓することである。 平成30年度は、本研究の電荷検出技術の応用展開を図り、単一分子からなる微小ナノ粒子の電荷状態の時間変化計測を試みた。計測対象分子として多数の電荷を充放電することが知られているポリ酸(polyoxometalate、POM)を用い、電荷センサとなるGaAs系ナノワイヤ表面に所望の密度の分子ナノ粒子を分散する方法と条件を確立した。低密度のPOMナノ粒子を分散させた状態でAFM金属短針をアプローチし、ナノ粒子と短針が容量結合した状態においてナノワイヤ電流変動が 生じること、および、短針にバイアス印加することで大きな電流変動を実験的に捉えた。観測された電流変動量から電荷量を見積り、多数の電荷が一斉に充放電することを明らかにした。Nature Communication 9, p. 2693 (2018)でTanakaらが仮説として立てていたPOMナノ粒子の一斉電荷充放電を実験実証することに成功した。さらに電流変動量は大気中の湿度と強く相関しており、環境の水分子が多いほど電流変動量が大きくなることを見いだした。この結果から、POMナノ粒子の特徴的な電荷ダイナミクスが環境との相互作用により生まれていることがわかった。
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