研究課題/領域番号 |
16K14246
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 左文 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40550471)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 増幅器 |
研究実績の概要 |
本研究で提案する共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いたテラヘルツ送受信モノリシック集積回路に関して、中核となるテラヘルツ双方向増幅器の設計を行った。回路設計には電磁界シミュレーションを用い、マイクロストリップラインの長さと幅および低損失誘電体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)の厚さを変化させ90°ハイブリッド回路を設計し、4ポートパラメータを算出した後に、別途、RTDのパラメータを組み合わせて設計した。COCは従来のBCBよりもテラヘルツ帯の損失の少ない新規誘電体材料として導入した。RTDのパラメータは、デバイス作製により電流特性を明らかにし、また、発振器を作製して発振周波数を測定することでキャパシタンスを抽出した。以上の計算により、300GHz帯では0.7平方μm のRTDメサを集積することで5dB、1THz帯では0.4平方μm のRTDメサを集積することで2.5dBの増幅度を有することが分かり、テラヘルツ増幅が可能なことを示した。また、どちらの周波数帯でも100GHz程度の帯域を有していることも明らかになった。増幅器にはRTDに並列に抵抗を接続し、寄生発振が起こらない様に設計し、安定性の評価も行った。増幅器回路の設計と共に、一緒に集積するパッチアンテナの設計も行い、約5dBiの指向性が上方に得られることがわかった。これらデバイスの設計を元に、まず増幅回路部分についてデバイス作製プロセス中のCOCの形成プロセスについて重点的に開発を行い、COCの塗布、焼成の条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
増幅器の設計では、RTDの持つ負性抵抗による寄生発振がシミュレーション上で明らかになったため、インダクタを介して並列抵抗をRTDに並列に接続することによって安定化を行った。この結果、直流からテラヘルツ帯の範囲で、寄生発振を防げることが分かった。計算から、300GHz帯で5dB、1THz帯で2.5dBの増幅度が得られる事が分かった。また、RTDの反射係数を計算した結果、3THz程度までゲインを有することが明らかになった。デバイス作製、プロセス開発について、COCの塗布、焼成方法を確立し、2μm程度の厚さのCOCが一度に形成出来たが、ドライエッチングのプロセスにおいて、エッチングレートが不安定であり、RTDメサのトップの金属層とCOC上の配線層の接続が出来なかった。集束イオンビームによる加工と電子顕微鏡による観察から、これは、エッチングが不十分だとトップの金属層にCOCが残留することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
増幅回路について、1THz以上での増幅が得られる回路を設計する。それらと併せて、増幅器の特性である1dB利得圧縮点についてRTDの非線形特性をモデル化して計算し、また、雑音特性についてRTDの雑音主要因であるショット雑音を考慮して算出することで、デバイスの能力を明らかにする。遅れているデバイス作製に関して、RTDメサのトップの金属層とCOC上の配線層の接続を確立するために、厚膜レジストで他の部分を保護しながら、残留COCの部分だけを十分にエッチングするように変更し、プロセス開発を急ぐ。作製したデバイスをテラヘルツのベクトルネットワークアナライザによって測定し、増幅度を測定する。この時、増幅度のバイアス依存性を測定し、負性抵抗のバイアスによる変化によって増幅度が変化することを示す。増幅能力が明らかになれば、発振器とパッチアンテナを集積して、モノリシックに集積した送受信デバイスを実現する。
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