研究課題/領域番号 |
16K14248
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉川 信行 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (70202398)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低消費電力 / 可逆回路 / 断熱回路 / 超伝導集積回路 / ジョセフソン集積回路 / 逆問題 |
研究実績の概要 |
可逆回路とは入出力信号の情報エントロピーが不変で双方向に論理演算が可能な回路であり、演算エネルギーの熱力学的限界であるLandauer リミットを下回る超低消費電力での論理演算が可能であることが知られている。我々はこれまでに断熱型量子磁束回路(AQFP 回路)を用いることにより、論理的にも物理的にも可逆演算が可能な完全可逆回路を初めて実証した。本研究では可逆AQFP 回路を利用することで、原理的に解法が困難な逆問題の計算を高効率かつ低消費電力で実行できる逆問題計算機を創生する。本原理に基づいて加減算・乗除算可逆演算や逆行列演算を行う逆問題計算機を実現し、可逆回路を用いた逆問題計算機の有効性を示す。 本研究の主な研究課題は、①可逆AQFP ゲートを用いた加減算・乗除算回路の実現と、②可逆AQFP ゲートの逆問題演算回路への展開である。本年度では、まず①に関連して、我々が提案した可逆AQFP回路において、論理演算の可逆性と消費エネルギーとの関係を数値解析により調べた。可逆AQFP論理ゲートを構成するジョセフソン接合の位相の時間依存性を調べ、各接合の位相変化が論理演算の時間反転に対して可逆であることを示した。このことは、提案した可逆AQFP論理ゲートが、論理的にも物理的にも可逆であることを示している。また、これらの回路の演算速度を減少させることで、演算のエネルギーをLandauer リミット以下のエネルギーに下げられることを数値解析により示した。一方、作為的に論理演算における情報エントロピーを消去したAQFP論理ゲートでは、論理演算に際してLandauer リミットよりも大きなエネルギー消費が起こることを明らかにした。以上の成果は、論理ゲートの論理的、物理的可逆性が論理回路の消費電力を下げる上で非常に重要であることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、可逆AQFP ゲートを用いた加減算・乗除算回路の具体的な設計に先立ち、まず、我々が提案した可逆AQFPゲートの論理的、物理的可逆性と消費エネルギーとの関係を明らかにすることを目指した。論理ゲートを構成するジョセフソン接合の位相の時間変化を調べ、可逆AQFP論理ゲートの位相変化が時間反転に対して可逆に変化することを明らかにした。このことは可逆計算にとって時間反転対称性が重要であることを示しており、具体的な加減算・乗除算回路の設計に際しても、時間反転対称性を考慮する必要があることが明らかとなった。 演算における最小エネルギーの問題は、Landauerにより指摘されて以来、これまで主に思考実験に基づく理論的検討が行われてきたが、本研究により実際に情報のエントロピーの保存と回路の消費エネルギーとの関係が明らかにされ、真の可逆論理ゲートによるLandauerリミットの研究が可能となった。これらの成果は、今後の演算におけるエネルギーを理解する上で大きな学術的ブレークスルーとなることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた可逆演算に関する知見に基づいて、本年度の前半にまず、可逆AQFPゲートを用いた加減算・乗除算回路の実現を目指す。これまでに開発した可逆AQFP多数決ゲートを用いて可逆加減算、乗除算器を設計・試作する。加算器/乗算器に対して出力側から信号を入力することで、減算/除算が可能であることを示す。 年度の後半では、可逆AQFPゲートを用いた逆行列計算アルゴリズムを検討する。可逆回路を用いて入力(x, A)と初期データから出力(z = Ax, A)ならびに中間出力を出力する行列計算器を構成する。本演算回路を可逆回路を用いて実現できれば、入力(z = Ax, A)からAの逆行列を計算できる逆行列演算器を構築できる。ここで可逆回路からの中間出力の生成が問題となるが、研究では不要な中間出力を低減し、逆行列計算を効率的に行うための演算アルゴリズムを構築する。更に可逆演算ゲートの規模と、計算コストならびにエネルギーコストとの関係を評価し、効率的な逆行列計算器の設計方法論を確立する。
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