可逆回路とは入出力信号の情報エントロピーが不変で双方向に論理演算が可能な回路であり、演算エネルギーの熱力学的限界であるLandauer リミットを下回る超低消費電力での論理演算が可能であることが知られている。本研究では可逆AQFP 回路を利用することで、原理的に解法が困難な逆問題の計算を高効率かつ低消費電力で実行できる逆問題計算機の創生を目指す。 本研究の主な研究課題は、①可逆AQFP ゲートを用いた加減算・乗除算回路の実現と、②可逆AQFP ゲートの逆問題演算回路への展開である。初年度では、我々が提案した可逆AQFP回路において論理演算の可逆性と消費エネルギーとの関係を数値解析により調べた。可逆AQFP論理ゲートを構成するジョセフソン接合の位相の時間依存性を調べ、各接合の位相変化が時間反転に対して可逆であることを示した。このことは、提案した可逆AQFP論理ゲートが、論理的にも物理的にも可逆であることを示している。 次年度では、可逆AQFPゲートを用いた加減算回路の実現を目指した。これまでに開発した可逆AQFP多数決ゲートを用いて可逆加減算器を設計・試作した。加算器に対して出力側から信号を入力することで、減算が可能であることを示した。一方、逆問題の解法においは、順方向演算の結果生じる不要なゴミ情報の再入力が必要となり、演算効率における課題が明らかとなった。しかしながら本研究を通して可逆多数決ゲートを用いた可逆演算回路の消費エネルギーの評価が可能となり、これらの回路がLandauer限界を超える超低エネルギーで動作することを明らかにした。また、可逆回路の設計において課題であるゴミ情報の生成を効率的に抑える論理合成方法が明らかとなり、可逆演算の研究分野において新たな方向性を示すことができた。
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