研究課題/領域番号 |
16K14259
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
秋田 成司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60202529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 原子層 / 光センサ |
研究実績の概要 |
グラフェンはその電子構造から広い光波長域での超高速光検出器として注目を集めているが、光吸収率が低い、キャリア寿命が短いという問題から単一光子検出感度は実現していない。これに対してグラフェン・電極界面に極めて薄いバリア層を設けることで著しく光感度が向上し室温で数百光子の感度を有することを発見した。本研究ではこの結果を基にグラフェンによる広い波長域で感度をもつ単一光子が検出可能な光センサデバイスの実現を目的とする。 1. 界面障壁の材料と形成法の検討 金酸化膜形成に自然酸化だけでなく酸化度や膜厚の制御が容易な酸素雰囲気中アニール、プラズマ酸化、オゾン酸化、電気化学的方法など多方面から検討した。さらに、トラップ効果のない単純なトンネルバリアとの違いを明確にするために原子層堆積法(ALD)による膜形成または他の原子層膜をバリア層とし検討した。 2. 界面電子状態の解明 先の項目に従って成膜した各種界面層に関してXPSスペクトルから価数、膜厚、被覆率について測定した。また、界面を通した電流の温度依存性、インピーダンス分光法から界面電子状態についてモデルを構築するために予備実験を行った。 3. 界面におけるキャリアの捕獲放出過程 電流の過渡光応答の温度依存性から捕獲放出係数に関する検討を行った。さらに、照射光強度を時間変調する変調光電流分光法からも捕獲・放出過程について検討した。 4. 光生成キャリアの空間分布 光生成キャリアの空間分布は界面での広がりだけでなく光感度発現に関して光誘起熱効果(キャリア密度変化)およびそれに起因したゼーベック効果、光生成キャリアの切り分けが可能になる重要な情報を与える。温度可変の顕微分光装置を改良し測定系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに進行しているが、電極界面の効果と他の効果を切り分けるために、新たに異種積層界面(BN/グラフェン、BN/MoS2)に関しても検討をするなど、より深く理解するための研究も進展させているため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.デバイス構造の最適化 前年度の結果を基にデバイスの最適化を行う。また、ゲート絶縁膜に関しても引き続き検討し、BN等の荷電不純物の少ない絶縁膜を候補として検討を行う。このような検証結果を基に単一光子検出を実現する。 2.遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)への展開 グラフェンでは広い波長範囲にわたる感度が期待できるが、一方でバンドギャップが閉じているため暗状態でも一定の電流が流れ続けバックグラウンドとなる。高速で且つ単一光子計測を実現するためには暗電流の抑圧が重要でありバンドギャップをもつTMDCを用いて界面状態を変調し特性向上を図る。 3.単層TMDCにおける界面効果による応答の高速化 グラフェンと同様に電極界面に捕獲された光誘起キャリアにより界面近傍のバンド構造が変調される。ただしグラフェンとは異なりバンドギャップが存在するため光生成キャリアの寿命は比較的長く通常の光伝導度変化も現れる。これに関して、グラフェンとTMDCでは仕事関数が異なることにも注意を払いグラフェンと同様に電極の効果について検討をすすめる。 4.グラフェン・TMDC積層膜の形成 グラフェンとの積層界面に従来報告されているようなトンネルバリアでなくトラップを有する障壁を上記項目の検討結果をもとに形成し、界面バンド構造を変調することで広帯域・高速の光検出器を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費とその他費に計上していた予算に大幅な差異が生じたのは論文投稿および学会発表が本年度中に間に合わず翌年度に繰り越されたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
既に当該年度に関する成果の論文投稿の準備、学会発表予定もあり、適正に執行できる計画である。また、論文投稿先がOpen Accessとなり掲載料金が高騰しているためこれに充てる予定である。
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