研究課題/領域番号 |
16K14263
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 博資 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30136212)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乱数検定 / ユニバーサル乱数検定 / Maurerの検定法 / Coronの検定法 / 乱数 |
研究実績の概要 |
ユニバーサルデータ圧縮符号化理論に基づく乱数検定法として,Maurerの乱数検定法やそれを改良したCoronの乱数検定法などが知られている.これらの乱数検定法は,2値系列が真の乱数のときにエントロピーレートが最大になることを利用して検定を行っている.しかし,エントロピー関数は,最大値近傍でその微分係数がゼロに近いため,真の乱数からのズレを感度よく検出できない欠点がある.本研究では,2値系列の中のビット`1'のある割合をランダムに`0'に置き換えることにより,確率分布のズレを最も感度よく検出可能な確率分布を持つ系列に変換したのち,ユニバーサル乱数検定を行う「確率分布シフトを用いた高感度ユニバーサル乱数検定法」を提案し,その性能をシミュレーションおよび理論により評価することを目的としている. 今までの研究により,2値系列の中のビット`1'を`0'に置き換える確率の最適値が約0.34であるこを理論およびシミュレーションにより明らかにした.また,提案検定法が,定常無記憶な2値乱数の偏りを,MaurerやCoronの検定法より10倍以上感度よく検出できることを明らかにするとともに,MaurerやCoronの検定法では検出できない線形合同法による擬似乱数の偏りや真性乱数の中に飛び飛びに偏りが含まれるような擬似乱数も,提案検定法では偏りを検出できることを明らかにした. なお,提案検定法は,偏りが非対称なマルコフ情報源に対しても感度よく検出可能であるが,マルコフ情報源の条件付き確率が偏りを互いに打ち消しあうような場合に感度が悪くなる問題点があることが判明した.現在,その欠点を克服するための改良法を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」欄に記載したように,提案乱数検定法は,従来のMaurerの検定法やCoronの検定法よりも,非常に感度よく擬似乱数の偏りを検出できるが,マルコフ情報源で偏りを打ち消しあう条件付き確率分布を持つように擬似乱数が偏っている特殊な場合に,検定感度が低下する問題点がある.NIST乱数検定ツールのように,乱数の検定では,多くの乱数検定法を組み合わせて使用するため,この問題点は大きな欠点とはならないが,この問題点を解決できるように提案乱数検定法を改良できれば,さらによい乱数検定法となる. そのため,研究期間を1年間延長し,この問題点を改善する方法について詳しく検討を行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」の欄で述べたように,現在の提案乱数検定法では,マルコフ情報源で偏りを打ち消しあうような条件付き確率分布を持つ特殊な場合に,検定感度が低下する.提案した確率分布シフト法では,2値系列の中のビット`1'の`0'への置き換えは,ビットごとに独立に行っている.上記の問題点を改善するために,ビット`1'の`0'への置き換えをマルコフモデルを用いて行うことが考えられる.しかし,1次マルコフモデルを用いて確率分布シフトを行うと,2次マルコフモデルで偏りを打ち消しあう条件付き確率に対して感度が悪くなり,2次モデルを用いて確率分布シフトを行うと,3次マルコフモデルで偏りを打ち消しあう条件付き確率分布に対して感度が悪くなるなど,際限がなくなる.その問題を解決するためには,マルコフモデルの次数をランダムに選びながら,確率分布シフト行うことなどが考えられる. 平成30年度は,そのようなさまざまな改善法を検討し,その性能をシミュレーションおよび理論により評価する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で提案した「確率分布シフトを用いたユニバーサル乱数検定法」が,従来の乱数検定法に比べて高い検出感度を有していることを明らかにした.しかし,その研究を行う中で,特殊なマルコフ情報源の場合に,感度が悪化することが判明した.この問題点が存在しても,提案した乱数検定法は十分に有用であるが,さらに有用な乱数検定法にできるように,1年間研究期間を延長して,この問題点を克服するための改善法を検討することとした.研究費の次年度使用額は,この研究目的のために使用する.
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