ユニバーサルデータ圧縮符号化理論に基づく乱数検定法として,Maurerの乱数検定法やそれを改良したCoronの乱数検定法などが知られている.これらの乱数検定法は,2値系列が真の乱数のときにエントロピーレートが最大になることを利用して検定を行っている.しかし,エントロピー関数は,最大値近傍でその微分係数がゼロに近いため,真の乱数からのズレを感度よく検出できない欠点がある.本研究では,2値系列の中のビット`1'のある割合をランダムに`0'に置き換えることにより,確率分布のズレを最も感度よく検出可能な確率分布を持つ系列に変換したのち,ユニバーサル乱数検定を行う「確率分布シフトを用いた高感度ユニバーサル乱数検定法」を提案し,その性能をシミュレーションおよび理論により評価することを目的としている. 2016-2017年度の研究により,2値系列の中のビット`1'を`0'に置き換える確率の最適値が約0.34であるこを理論およびシミュレーションにより明らかにした.また,提案検定法が,定常無記憶な2値乱数の偏りを,MaurerやCoronの検定法より10倍以上感度よく検出できることを明らかにするとともに,MaurerやCoronの検定法では検出できない線形合同法による擬似乱数の偏りや真性乱数の中に飛び飛びに偏りが含まれるような擬似乱数も,提案検定法では偏りを検出できることを明らかにした. 今年度は,偏りが互いに打ち消しあうような特殊な条件付き確率を持つマルコフ情報源の場合に,検出感度が劣化する問題を検討した.多くの方法を検討したが,有効な手段は見つからなかった.しかし,それらは非常に特殊な場合であり,提案した検定法を他の統計的な検定法等と組み合わせて用いることにより,そのような特殊な場合でも偏りを検出できることを明らかにした.それらの成果をまとめて,情報理論および符号理論とその応用ワークショップ(ICA2019)で発表した.
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