研究課題/領域番号 |
16K14267
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
和田山 正 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20275374)
|
研究分担者 |
鎌部 浩 岐阜大学, 工学部, 教授 (80169614)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | TDMR / 磁気記録 / 誤り訂正符号 / 制約符号 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、近い将来に必要とされる高密度ハードディスクドライブ(HDD)}信号処理のための信号依存性雑音抑制に適した符号化処理の開発を目標とする。昨今の巨大データセンターで利用される大容量ストレージデバイスにおいては、単位エネルギーあたりの記録容量の向上が強く求められている。本プロジェクトでは、HDDの記録密度向上への貢献を目指し、(1) HDDにおける2次元記録方式(TDMR)に適した通信路モデル(TDMR数理モデル)の提案・相互情報量の評価;(2) TDMR数理モデルにおける近似最尤検出アルゴリズムの開発;(3) TDMR数理モデルに適した2次元制約符号の開発に関する研究を系統的に行う。 H28年度においては、当初の目標のひとつであるTDMR数理モデルの構築の一環として、数理TDMRモデルにおける相互情報量評価の手法の提案を行った(寺島 由裕, 和田山 正,``簡易数理TDMRモデルにおける相互情報量について'', 電気情報通信学会 総合大会, 福岡, 2016)。この研究では、相互情報量計算に必要とされる数値計算を大幅に削減する計算技法も合わせて開発した。 一方、TDMR通信路向けの2次元制約符号化に関する研究を展開した。Yoju Fujino, Tadashi Wadayama, ``A Construction of Non-Binary WOM Codes based on Integer Programming, '' International Symposium on Information Theory and Its Applications (ISITA), (2016)において発表した制約符号構成技法は、整数計画法に基づき、符号化・復号写像をを定めるものであり、非常に汎用性の高い符号構成技法であり、TDMRに適した符号の開発に利用できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画においてH28年度は、TDMR数理モデルの構築と相互情報量の評価手法の確立を大きな柱として挙げていた。この部分に関しては、寺島 由裕, 和田山 正,``簡易数理TDMRモデルにおける相互情報量について'', 電気情報通信学会 総合大会, 福岡, 2016にて発表された手法の開発など一定の成果が得られたものと考えている。 一方、2次元研究方式の研究については、当初見込みよりも問題が困難であることが分かってきたため、現時点では顕著な研究成果が得られているとは言い難い。原因として、信号依存性の雑音の取扱のために当初予定していた既存手法の拡張が有効で無かったためである。 その代わりとして、H29年度のテーマとして挙げていたTDMR通信路向け2次元制約符号化の研究を前倒しでH28年度に一部行った(Yoju Fujino, Tadashi Wadayama, ``A Construction of Non-Binary WOM Codes based on Integer Programming, '' International Symposium on Information Theory and Its Applications (ISITA), (2016))。この研究ではWOM符号の構成を整数計画法に基づき行うというものであり、その手法はTDMR用2次元符号化に容易に転用できるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように(現在までの進捗状況)信号依存性の雑音を取扱ための方策を抜本的に検討し直すことが必要と考えている。信号依存性の雑音をうまく扱うために、本年よりニューラルネットワークに基づく復号法の検討を開始する。この手法は、LDPC符号の復号法であるビリーフプロパゲーションに学習可能なパラメータを導入し、バックプロパゲーションによりパラメータの学習を行う手法である。学習により信号依存性雑音をうまく処理できる非線形処理が自動的に構成されることが期待される。非線形シンボル干渉通信路の等化のためにニューラルネットワークが利用された研究事例はあるが、LDPC符号との組み合わせを検討した事例はなく、まだまだ研究の余地があると考えている。 一方、2次元制約符号化の研究においても、残された課題である符号構成のための計算量削減について検討を行っていく予定である。整数計画法を利用したわれわれの手法においては、整数計画問題を解くための計算量が大きな問題として残されている。線形計画緩和や貪欲法に基づく支配集合分割のアルゴリズムに基づき符号構成が可能であれば、整数計画問題を解くことを回避することが可能となる。 まとめるとH29年度は、(1) ニューラルネットワーク学習に基づく2次元検出方式の開発と(2) 2次元制約符号構成のための基礎的検討を軸に研究計画を進めていき、順調に進展がある場合には、LDPC符号との統合を視野に入れていく予定である。(1)と(2)を比較すると(1)のほうが研究のリスク(外れる可能性)が高いが、もし、(1)が順調に進まない場合においても「学習できるビリーフプロパゲーション」に関する工学的知見が得られるものと予想しており、進める価値があるものと考えている。
|