低コストな圧電センサ計測システムを用いて頚動脈の皮膚変位(脈波)データから脳動脈狭窄の診断手法を開発するため、以下の二点の研究を進めた。まず、脈波の伝搬挙動を理解するため、模擬血管による脳動脈モデルを作成し、動脈中の狭窄が頸動脈波に及ぼす影響を実験的に検討する。また、圧電センサ計測システムを用いて、健常者や閉塞患者の頚動脈脈波を臨床計測し、両者の波形比較から閉塞時の脈波波形の特徴量抽出を目指す。 平成29年度は、血管に近い柔らかさのポリマーチューブで、脳動脈樹の作成に成功した。また、水を満たしたこの人工動脈樹内に、血流を模擬してパルス状の水の圧力波を伝搬させたところ、脳内の血管床に近い内径1mm程度の模擬血管内閉塞からの反射圧力波が、頸動脈の位置で観測されることを確認した。 また、臨床研究では、圧電センサシステムを用いて、内頚動脈閉塞患者8名と健常者19名の左右の頸動脈波の計測を行った。これらの患者の総頚動脈ED-ratioは1.4以上であり、片側の頸動脈の閉塞が確認されている。患者、健常者の左右の頸動脈波の速度波形を計測したところ、患者では左右の波形が異なる傾向が見られた。そこで左右波形の相互相関を算出した。その最大値は0.93(健常者平均)および0.58(患者平均)となり、値のばらつきはあるものの、健常者群は0.80以上、患者群はそれ以下に大別された。また、閉塞側の速度波形は高周波成分が多く、脳内からの反射波の重畳の効果が確認された。これらの結果により、本システムの頸動脈波計測により閉塞患者の簡易スクリーニングが可能であることが確認された。
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