研究課題/領域番号 |
16K14286
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
延山 英沢 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50205291)
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研究分担者 |
上 泰 明石工業高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (20413809)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 制御理論 / 制御系設計 / 有限個周波数応答モデル / むだ時間システム / 繰り返し制御 / 凸最適化 |
研究実績の概要 |
本研究は,ノンパラメトリック表現である有限個周波数応答モデル(FNFRモデルと呼ぶ)を用いた制御器設計法の開拓を目的としている.このモデルの特徴はむだ時間を含まないシステムと含むシステムとを区別せず同じ枠組みで扱えることにあり,今年度は,この特徴を生かして,繰り返し制御系におけるPID制御器の設計法を提案した. 繰り返し制御系は,周期信号への追従や周期信号外乱の除去に効果を発揮する制御方式であり,その特徴は,繰り返し補償器と呼ばれる補償器に対応する周期分のむだ時間を導入することにあるため,制御対象にむだ時間を含まない場合においても,制御対象と繰り返し補償器を合わせると全体としてむだ時間システムなる.それゆえ,システムをフィードバックにより安定化するPID制御器の設計は難しくなってしまうが,本研究の提案では,FNFRモデルを用いた制御系設計法を適用することにより,繰り返し制御系に対して系統的な新しいPID制御器設計法を与えることができた.そして,その結果をまとめ,国際会議で発表した. さらに,PID制御器では設計パラメータ―の自由度が3つしかなく,制御性能を上げるには限界があることが多く,それを克服するためには制御器の次数を増やした制御器を用いる必要がある.そこで,本研究では,設計者が指定した次数の制御器を用いた制御系設計法をFNFRモデルを用いて与えることを考えた.そして,その制御系設計法を与えるためにナイキスト安定判別法の考え方を拡張し,固定次数制御器を用いた場合の新しい閉ループ系の安定判別法を与えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,有限個周波数応答モデルを用いた制御系設計法の開拓であり,実験データや伝達関数から計算された有限個の周波数応答の数値データの集合を制御対象のモデルとして捉え,その数値データを基にした安定性などの制御性能の条件を与え,制御系設計法を数値的最適化に帰着させることである.このような目的の下,これまで,まず,ロバスト安定性を確保するための十分条件をナイキスト安定判別法の考え方を基に提案し,その条件を満たすためのPID制御器の設計法を凸最適化問題に帰着した.そしてさらに,その設計法をゲイン余裕や位相余裕として指定した値を確保するための設計法へと拡張した.これらの特徴は,有限個周波数応答モデルを用いたことの帰結として,むだ時間を含むシステムと含まないシステムとに対して区別なく適用できることである. 当初の予定では,初年度である今年度にPID制御器設計とI-PD制御器設計を行い,固定次数の制御器を用いた制御系設計法の提案を次年度行う予定であった.それに対して,今年度はPID制御系設計の提案と固定次数の制御器を用いた制御系設計法の提案を一部行った.I-PD制御器設計の提案は今年度を行わなかったが,その代わりに固定次数の制御器を用いた制御系設計法の提案を一部行えた.さらに,繰り返し制御におけるPID制御器の設計法の提案を行ったことも考慮すると,これまでの本研究の進捗状況は順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
これまで,有限個周波数応答モデルを用いたPID制御器設計法とその応用として繰り返し制御におけるPID制御器の設計法の提案,および固定次数の制御器を用いた制御系設計法の提案を一部行っており,研究は順調に推移している.今後は,このまま研究を進め,これまで得られた結果をより多くの数値実験等によりその効果を検証し,検証結果に基づく改良を行っている.さらには,初年度でできなかったI-PD制御器設計法の検討も行う.具体的には,システムの不確かさが乗法的不確かさで表される場合や複数の伝達関数の集合として表される場合,複数の実験毎に得られたデータに基づく複数のFNFRモデル等が与えられた場合に,一つのI-PD制御器でそれらすべての安定性を保証するようなロバストI-PD制御器の設計法をFNFRモデルに基づき提案する.また,特に固定次数制御器を用いた場合の制御性能の向上に関して残された問題の検討を行う.そして,これらの研究で得られた成果は積極的に国内外の学会で論文発表を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,主に国際学会と国内学会に参加のための旅費を計上していたが,国際学会への参加人数が予定よりも少なかったことと,地元で開催された国内学会に参加したため,予定よりも旅費がかからなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,国際学会への論文投稿や参加数を増やすことを計画しており,今回生じた次年度使用額を翌年度分とを合わせて,その旅費や参加費として使用する予定である.
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