研究課題/領域番号 |
16K14300
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中川 英則 小山工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (00369935)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スペクトル確率有限要素法 / NISP法 / 弾塑性体 / 微小変形問題 / 有限変形問題 |
研究実績の概要 |
当該年度は次のことを行った. (1)第一段階として,微小変形の範囲ではあるが,応力積分に際してNISP(Non-Intrusive Spectral Projection)法を局所的に導入した,NISP確率有限要素法を開発した.非線形な確率有限要素法において,どのような展開手法を用いても平均値はある程度正確に追うことはできるが,バラつきを正確に追うことは難しい.そのために,応力のリターンマッピングに際して,バラつきを正確に保てる手法の開発が,最終目的の達成のためにはまず必要となったためである.ヤング率が正規分布にしたがって確率変動するような1次元確率変数を含んだ平面ひずみ弾塑性問題に対して,NISP確率有限要素法を適用し,モンテカルロ法およびStochastic Collocation法によって得た確率密度関数と比較することで,本手法の妥当性を示した. (2)第二段階として,ヤング率および降伏応力が独立に正規分布にしたがって確率変動するような2次元確率変数を含んだ微小変形弾塑性問題に対して,拡張したNISP確率有限要素法を適用した.応力の標準偏差の推移について,1次元の範囲で確率微分方程式(Fokker-Planck方程式)を直接解いたSett氏,Jeremic氏(Univ.of California, Davis)の結果(Int.J.Numer.Anal.Meth.Geomech.,34,pp.1541-1559,2010)と傾向が完全に一致することが確認できた.このことは,微小変形の枠組みでの弾塑性スペクトル確率有限要素法について,バラつきを正確に保つリターンマッピング法の構築が完成したことを示している. (3)第三段階として,有限変形の弾性問題について,total Lagrange形式でのスペクトル確率有限要素法をの構築を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度の上半期では,Acharjee氏,Zabaras氏(Cornell Univ.)によって発表された方法(Comput.MethodAppl.Mech.Engrg.,pp.2289-2312,2006)に従い,先ずは材料定数の確率変動が応力の変動にあまり影響を与えない(陽解法を使える)形で有限変形のスペクトル確率有限要素法のプログラムを構築する予定であったが,当初はその予定と異なる方向に進む結果となった.それでもなお上記の区分とした理由は次のようである.Acharjee氏,Zabaras氏の論文で,応力の更新アルゴリズムを考慮する必要がある,との一行の記載はあるものの,応力の更新アルゴリズム手法についての具体的な記述がなく,どのようにリターンマッピングを行っているかが全くもって疑問であったが,別の手法(NISP確率有限要素法)を構築することで解決できたことによる.確率変動をする降伏曲面へ,応力の確率変動のバラつきをある程度正確に保ちながらリターンマッピングを行う手法の確立は,材料非線形性を含む問題への1つの解答であり,残るは幾何学的非線形性にどう対応するか,を解決することに尽きる.この幾何学的非線形性への対応については,先ずはtotal Lagrange法を用いた有限変形の弾性問題の範囲で,理論およびプログラムの構築を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は次のようである. (1) 第一段階として,有限変形の弾性問題について,updated Lagrange形式(以下UL形式)でのスペクトル確率有限要素法が構築できないかを考える.これは,確率を導入することで繰返し計算における数値誤差によって最も不安定な分岐解に到達するかを調べるためである.確率を導入していない通常の非線形有限要素法を用いて,Scaled Correctorを導入して完全系での塑性不安定解析を行っている.そこでは,材料構成則の関係でupdated Lagrange形式を用いている.それをtotal Lagrange形式で等価に行うためには,変形勾配テンソルによる4階弾塑性テンソルの変換が必要となる.しかし,ここに確率を導入するとなると,PC展開された変形勾配テンソルが4回も掛かることになり,確率変動のバラつきをある程度正確に保つことが出来るかという精度的な問題が危惧される.そのために,UL形式を用いたい訳であるが,UL形式では,TL形式のように,節点は別として1つの物質点に着目してその確率過程を追いかけている訳ではない.そのために,NISP確率有限要素法の取り扱いにおいて,正確に確率過程を追えるかが疑問となるためである.UL形式,TL形式の双方のNISP確率有限要素法を構築し,比較することでこの問題に対応してゆく. (2) 第二段階として,有限変形の範囲での平面ひずみ弾塑性問題について,NISP確率有限要素法の構築を考える.NISP確率有限要素法を材料非線形性のみならず,幾何学的非線形性に対しても適用出来るかを先ずは探ってゆく.幾何学的非線形性に対してNISP法を適用し精度的な問題が生じた場合は,材料非線形性に対してはNISP法で,幾何学的非線形性に対してはPC展開の四則演算を多用するhybrid手法の構築を考えている.
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