研究課題/領域番号 |
16K14308
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梅田 信 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10447138)
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研究分担者 |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境水理学 |
研究実績の概要 |
ダム湖や自然湖沼において,浮遊微粒子(いわゆる濁質やプランクトンなどの微生物)の問題は,未解決の部分が大きい。従来の工学的な問題としては,ダム湖における濁水長期化が挙げられる。これは,密度成層した現地スケールの乱流場における微粒子の挙動が,十分に解明されていないため,各種の水質保全対策による効果が十分に得られていないことも多い。このような従来的な問題に加え,微粒子が関与した窒素循環や温暖化ガスの生成など,浮遊粒子の関与する新しい問題も指摘されるようになっている。 このような背景を踏まえ,今年度の本研究では,1点目の着眼点として,環境流体力学的な計測や解析から,閉鎖性水域において形成される密度成層場中での微粒子運動のメカニズム解明を目指した。観測対象地には,北上川水系胆沢川に位置する胆沢ダム貯水池を選定した。このダムは,従来供用されていた石淵ダムの再開発事業として建設され,2013年に竣工した大規模なダムである。貯水池規模の拡大により,湖水の滞留時間の増加などの要因から,濁水放流の問題が懸念されているところであり,貯水池内の濁水挙動についての検討が必要とされている。成層期において,洪水が流入し濁質が浮遊しているような条件において,流速分布の詳細な観測するための検討を行った。本研究で製作した計測器係留具を用いて,全水深30m以上の中で数m間隔での流速計測を実施した。その結果を分析し,流速変動(測定流速の標準偏差を指標とした)の鉛直分布と浮遊している濁質の粒径および換算沈降速度の関係を評価した。また2点目の着眼点として,浮遊粒子が関与した栄養塩循環を解析する手法を確立するため,大規模な自然湖沼である猪苗代湖において,安定同位体を用いた現地実験を行った。その結果から,湖内の一次生産による窒素消費量と,河川などから供給される窒素負荷量の関係について評価,考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた現地湖沼(ダム貯水池)における成層期の流速変動計測および浮遊微粒子に関する測定を行う手法について進捗があった。ただし,現地湖沼における計器の設置が困難であるため精度に関しては課題がある。そこで,次年度において測定方法などについてさらに検討が必要ではあると考えられる。また,一次生産や窒素循環に関する検討に関しても,現地計測に基づいて実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
環境流体力学的観点からの,密度成層乱流場を想定した流動計測については,計測事例を増やしつつ,測定精度の向上を目指して,新年度も観測を継続する。そのような現地観測と並行して,水理モデリングに基づく流動解析手法を取り入れ,水域全体の流動から微粒子の挙動まで含んだ解析手法の構築を目指す。解析手法については,近年水工学の分野で開発されつつある汎用的な高精度シミュレーションモデル(コード)を援用する予定としている。また,微粒子の関与した生物化学的な環境要因についても,湖沼における現地データの取得を進めつつ,物理的(力学的)モデルと生物化学的な水環境への影響要因を考慮したモデルとの組合せた手法の検討を行い,閉鎖性水域における総合的な微粒子解析手法の構築を目指すものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
天候不良などの理由により,本来は実施する予定であった現地観測を行えなかった状況があった。観測は,季節的な水環境条件にも左右される実施内容であったことから,結果的に年度末まで,当該内容の観測は行えず,その観測で使用するための消耗品費や旅費を,持ち越すこととなってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度には十分に実施することができなかった点も踏まえ,今年度の現地観測において,より充実したデータをとるために,観測工程を増強して実施する計画とする。
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