本研究では1)魚類・底生動物の分泌物・糞の浮遊特性に関する水路実験,2)実河川におけるサンプル水の環境DNA分析,3)河川内生物量推定法の開発を実施した.それぞれの成果について以下に詳細を示す. 1)魚類・底生動物の分泌物・糞の浮遊特性に関する水路実験:魚類としてはカワムツを対象として,流水環境の水路実験によってカワムツの総重量と水路内の水のカワムツの環境DNA濃度に明確な正の相関があることを明らかにした.また,アユおよびカワムツの糞・粘液の沈降速度を明らかにした. 2)実河川におけるサンプル水の環境DNA分析:中国地方の三つの一級水系(高津川,佐波川,小瀬川)を対象として流域内で網羅的に採水を行い,アユおよびカワムツの環境DNA濃度から,それらの分布特性を明らかにした.また,このモニタリング手法を,アユやカワムツだけでなく多種にも拡大することにより,多地点における多種の生物量の定量化が短時間で可能になることが示唆された. 3)河川内生物量推定法の開発:流水環境にてアユを対象とした実験をおこない,環境DNAの影響範囲と減耗の傾向を明らかにした.また,環境DNAを含む物質の流下シミュレーションにより,流水環境中においては,DNAを含む物質は流下に伴って破砕され,微細な粒子となって漂流または沈降することが示唆された.今後,糞や粘液などの環境DNAを含む物質の実河川における動態を明らかにすることによって,対象とする生物の環境DNA濃度から生物量の推定が可能になると考えられる.
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