本研究では,未だ不明な点が多い消毒処理におけるウイルスの不活化メカニズムについて,ウイルスの感染性を決定づけるカプシドタンパク質のアミノ酸レベルの変性を精密質量分析にて詳細に捉えることにより解明することを目的とした.また,高い消毒耐性を有する遺伝子型を含む複数種のウイルスを消毒処理実験に用い,ウイルスの遺伝子型間,種間での変性の有無,並びに変性箇所の差異を確認することにより,消毒耐性メカニズムについても議論することを目的とした. 本年度は,浄水処理工程における水系感染症ウイルスの挙動指標としての有効性が示されつつあるトウガラシ微斑ウイルスの塩素処理性について,宿主植物であるNicotiana tabacum cv. Xanthi-ncを用いた感染性評価手法を構築し,適用することにより評価した.また,当初の予定であった精密質量分析に比べて高感度且つ特異的にウイルスを定量可能な光反応性色素であるPMAの改良高純度試薬であるPMAxxとPMAの反応向上試薬であるEnhancerを併用したPMAxx-Enhancer-PCR法による分析を実施することにより,ウイルス不活化メカニズムについて議論した.その結果,トウガラシ微斑ウイルスは,高い塩素耐性を有するとされるコクサッキーウイルスB5型よりも極めて高い塩素耐性を有することが明らかとなった.また,トウガラシ微斑ウイルスの不活化が確認された場合であっても,PMAxxがウイルス粒子内部の遺伝子まで透過可能な程のカプシドタンパク質の損傷は生じていないことが明らかとなった.
|