研究課題/領域番号 |
16K14326
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂巻 隆史 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60542074)
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研究分担者 |
藤林 恵 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (70552397)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 内湾食物網 |
研究実績の概要 |
南三陸海岸に位置する志津川湾内の岩礁1地点と湾奥部に流入する河川からの距離の異なる砂泥質の3地点において,季節ごとの調査を前年度から継続して実施した.食物連鎖の比較的高位にあると位置づけられる魚類(カレイとアイナメを中心に)および同時に採取されたベントス複数種について,脂肪酸組成や炭素・窒素安定同位体比の分析を行った. 脂肪酸組成については,捕食性魚類・ベントスともに,季節的な変動はあまりみられず地点間での空間的な差異の方が大きかった.特に,河口近くの地点で採取された各種生物の脂肪酸組成は,沖寄りの地点に比べて脂肪酸中の珪藻由来脂肪酸の割合が高いことが示された.河口近くでは.河川からの栄養塩流入の影響を受けて生産された珪藻由来の脂肪酸が食物連鎖を通じて高次捕食性魚類にまでより多く伝達されていることが示された.一方,生物体内の陸域起源有機物のマーカー脂肪酸については,河口‐沖方向に明確な分布傾向を示さず,特に捕食性魚類についてはその含有量も非常に低かった.安定同位体比分析の結果を合わせても,陸域起源有機物の食物網全体への寄与は藻類起源のものに比べて相対的にかなり低いものと考えられた. これまでに得られた結果において,局所的な食物網や生息環境の違いが捕食性魚類の脂肪酸組成の有意な差として捉えられたことから,このような生態系構造評価の有効性が示されたといえる.一方,ベントスおよび捕食性魚類の体内の各種脂肪酸濃度の比較からは,捕食性魚類が特に被食者の有する緑藻系や渦鞭毛藻等の特定のマーカー脂肪酸を濃縮する傾向が示された.今後,栄養段階の上昇にともなう脂肪酸濃縮のパターンを定量的に理解する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に沿って研究を展開できているため
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今後の研究の推進方策 |
一次消費者および捕食性魚類の飼育・摂餌実験を実施して,引き続き食物連鎖過程での脂肪酸組成の変化パターンの理解に努める.それらの結果を基に,内湾の局所群集が形成する食物網内の各種脂肪酸フローを記述する機構的数理モデルの構築を目指す.そして,本研究で得られた一連の知見やモデルを統合して,定住性高次捕食者の脂肪酸組成分析に基づき沿岸域の食物網構造の概形を推定する手法の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当初予定していた分担者藤林の調査フィールドである志津川湾までの調査出張が不要となった.代表者グループによる現場作業が想定よりも効率的に行うことが可能であったためである.また,代表者グループ側で分析作業が想定よりも効率的に行うことが可能であったため,本研究課題の試料分析を代表者側でまとめて実施したためである. 使用計画:次年度の試料分析については,当初予定よりも実験において試料数の増大が見込まれているため試料分析が増大すると考えられる.翌年度の使用計画は基本的に維持し,それに加えて上記の追加分析費用に今年度の未使用額分を使用する予定である.
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