①2016年度に南三陸町志津川湾で実施した現地調査で採取した捕食性魚類・ベントスの脂肪酸組成分析の結果について解析を進めた.特に,河川流入域からの距離が異なる2地点の局所群集間で食物網構造の差異を脂肪酸組成分析から評価できるかを検討した結果,2地点間の捕食性魚類・底生動物間でマーカー脂肪酸組成に有意な違いが認められた.河口近くの食物網は,珪藻起源有機物への依存が相対的に大きいのに対し,沖寄りでは緑藻起源有機物への依存が大きかった.これらより,消費者生物の脂肪酸組成分析から局所的な群集・食物網の構造の特性を評価できることが支持された.また,上記データもとに,捕食性魚類による各種脂肪酸の濃縮の特性について検討した結果,捕食性魚類が被食者の有する特にEPAやDHA等の脂肪酸を体内に濃縮する傾向が認められた. ②餌源の変化に対応して,時間的に捕食性魚類の脂肪酸組成がどのように変化するかを同化・異化の観点から評価するため,ホシガレイ種苗用いた屋内実験を実施した.当初予定したゴカイの摂餌実験ではカレイが摂餌せず実験が成立しなかった.その後,脂肪酸組成の異なる配合飼料を用いた実験系に切り替えて実験を実施した.実験は終了し現在試料分析作業を進めている. ③代表者が南西諸島で捕獲したハタ科魚類の脂肪酸組成分析データの分析を行った.特に,餌資源が類似し競争がより強く作用すると考えられるハタ種間では脂肪酸組成も類似性が高いことが分かった.これに基づき,捕食性魚類の脂肪酸組成は,餌をめぐる種間競争の予測指標と可能性も示した. ④本研究の一連の知見から,捕食性魚類の脂肪酸組成分析をもとに,内湾内で空間的に不均質な局所的食物網構造の概形を捉えられることが示された.今後は,生態系評価手法への応用に向けては,栄養段階の上昇や種間での脂肪酸濃縮のパターンに関して定量的な情報をさらに集積し一般化する必要がある.
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