プロセス内の生物学的反応を理解するためには、その反応を担っている微生物群の機能を解明することが不可欠である。そこで本研究では、安定同位体基質で標識された基質をトレーサーとして用い、微生物代謝に基づいた微生物機能解明に着目した。細胞レベルでの代謝活性の評価には、濃度99.9%の重水により作成した培地で純粋培養した大腸菌と、消化汚泥に重水を12.5-50%添加し培養したものサンプルとして用いた。また、表面増強ラマン散乱効果によるラマン散乱光のシグナル増幅を試みた。濃度99.9%重水により作成した培地で純粋培養した大腸菌のラマンスペクトルを計測したところ、C-D結合由来の良好なピークを検出した。続いて、重水含有培地中で培養した消化汚泥のラマンスペクトルを計測したところ、夾雑物の存在により細胞を計測し辛く、また細胞を計測できてもC-D結合由来のラマンスペクトルが検出されなかった。環境サンプルに本手法を適応する場合、気質の重水濃度は50%程度までが限界であり、微生物は重水よりも軽水 (H2O) を優先して代謝する性質をもつ。ゆえに、重水代謝量が少ない場合でもC-D結合由来のラマンスペクトルを検出でき、かつ迅速な計測も可能とするために、SERS効果による高感度化を行った。SERS効果を利用するために、微生物に代謝された重水素の多くは脂質に蓄積されることに着目して、金ナノ粒子を大腸菌細胞内に侵入させ、その粒子に金増感を行ったが、SERS効果と思われるものが見られたのは15計測点のうち一点のみであった。同サンプルを用いたTEM観察画像からは、金ナノ粒子が細胞表面のみに吸着されていることが分かり、この結果は細胞表面を形作るリン脂質、もしくは細胞膜の外側に伸びる糖脂質に対してSERS効果が働いたためであると考えられる。
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