研究課題/領域番号 |
16K14328
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西村 修 東北大学, 工学研究科, 教授 (80208214)
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研究分担者 |
野村 宗弘 東北大学, 工学研究科, 助教 (70359537)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ブルーカーボン |
研究実績の概要 |
森林による二酸化炭素の吸収・固定は温暖化緩和策として重要な位置づけにあるが,一方で草本植物(ヨシやアマモなど)は樹木に比べて枯死・分解しやすく,短期間に二酸化炭素を放出するため,炭素収支としてはほぼバランスしていると評価されてきた.しかし近年,海洋生態系においてマングローブ等の木本に加えてアマモ等の草本が大気中の二酸化炭素を固定し,埋没させる(分解・放出しない)未知の炭素フローが注目されている.ところが,本当にアマモが埋没する炭素の起源となるのか,埋没させる炭素量はどのくらいあるのかを評価する手法は確立していない.本研究では沿岸域堆積物コアの長鎖脂肪酸(アマモ等高等植物のバイオマーカー)の炭素安定同位体比(陸上と海洋の植物の分離指標)を測定し,埋没する炭素の存在を確認するとともに,年代解析の結果とあわせてアマモ由来有機物の分解過程をモデル化し,1万年程度の分解を経てなお埋没するアマモ起源有機物の炭素量の定量化を試みる. 本年度は小川原湖コアの深さ方向に分割した各層の脂肪酸組成を測定し,最も深い9,000年前程度の層に堆積するLCFAsの存在を明らかにし,高等植物起源の有機物が9,000年以上残存することを明らかにした.また,各層のLCFAs/全FAを解析したところ,浅い層でのLCFAs/全FAs比は40~60%と別途室内実験において実施したアマモの分解実験における720日間分解したアマモに近い値をとることがわかった.しかし,深くなるにしたがってLCFAs/全FAs比は増加し,最終的に70~80%を示した.このことから,LCFAs/全FAs比は高等植物起源の有機物の分解過程を表す指標として有用であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小川原湖の20mの堆積物コアから深さ方向に約10cm間隔でサンプルを採取し,有機炭素含有率,炭素安定同位体比,脂肪酸組成,脂肪酸の炭素安定同位体比を分析する予定であったが,脂肪酸の炭素安定同位体比のみ分析機器の不調により実施できなかった.しかし、サンプルは前処理を行なって保存しており,分析機器もメンテナンスを行なって回復したので今年度早々に分析を実施する予定である.その他の分析結果は概ね予想した通りの結果が得られており,研究は計画通りに進んでいる.さらに当初予定には無かったアルカン等の分析も準備済みであり,有機物の分解に関する情報収集を当初予定以上に進める予定である。 また,有機物分解に関する室内実験に関しては、海草アマモ,褐藻アカモクの720日分解実験を終了し,海草起源脂肪酸組成遷移モデル,海草起源の有機物分解モデルを構築した.20日間の分解実験によって海草アマモ,褐藻アカモク由来のPOCの残存を確認した.その結果,Multi-Gモデルを用いて難分解性POC量を推定し,海草アマモ由来POCの39.3%,褐藻アカモク由来POCの40.0%が難分解であるという結果を得た.これらの結果は,当初予定した高等植物由来難分解性有機物の値を上回るものであり,ブルーカーボンによる地球温暖化緩和策の有効性を示す貴重な知見であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
分解実験における有機炭素含有率と脂肪酸組成比の変化との関係に関するモデルを構築する.また堆積物コアは当初の海草起源有機物の堆積量をアマモの核遺伝子量の分析からも推定し,この結果を用いて室内実験から得られたモデルをチューニングし,長期的な有機物分解モデルに拡張する.これら2つのモデルを連結することで,堆積物コアの脂肪酸組成比の分析値からどのくらいの分解時間が経過した海草起源有機物か推定が可能となり,また脂肪酸組成比(あるいはアマモ核遺伝子量)から有機炭素量を推定することが可能となる. なお,堆積物コアには海起源のみならず陸起源の有機物も少なからず堆積していると予測される.これを分離して評価する方法としては,脂肪酸の炭素安定同位体比の分析からは特定の脂肪酸(例えばアマモと陸上植物の落葉に共通するLCFA)の安定同位体比が得られ,アマモと陸上植物の炭素安定同位体比が異なることを利用してそれぞれをエンドメンバーとしたミキシングモデルにより解析することを計画している.このような脂肪酸の安定同位体比分析の特徴を活かすことで,海草起源の炭素の埋没を推定することが可能になるとともに,陸起源の落葉等による炭素の埋没についても検討することが可能となる. そして,本研究で開発した海草起源の有機物の分解モデルを用いて推定した推定する埋没する炭素と海草が隔離する二酸化炭素に関する既往研究成果を比較解析し,モデルの有効性と課題を明らかにする. 最終的には,日本の海草場の現存量から年間生産量を推定し,その分解過程を開発した海草起源有機物の分解モデルを適用して解析し,日本の沿岸域において1年間に埋没する炭素量を試算する.また,かつて開発により失われた海草場が埋没する炭素量の減少に及ぼした影響を評価する.さらに,世界の海草場における埋没する炭素量の試算を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
分析機器(GC-IRMS)の不調のため、土壌サンプルの一部の分析(脂肪酸の安定同位体比)を平成29年度に実施することとした。このため分析に必要な消耗品(分析試薬、ろ過フィルター)の購入のための物品費を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
6月までに保存するサンプルの分析を終了する予定であり、このために必要な消耗品(分析試薬、ろ過フィルター)を購入する。
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