研究実績の概要 |
光合成により固定され,海洋生態系に捕捉される炭素のことをブルーカーボンという.自然生態系による炭素固定は,大気中の温室効果ガス削減に寄与すると考えられている.しかし,ブルーカーボンの定量的評価方法は定まっていない. そこで本研究では,青森県小川原湖の堆積物コアサンプルといくつかの植物を用いて,脂肪酸や炭素安定同位体比の分析を行った.そして,実水域において堆積している植物の起源を推定し,さらには堆積物におけるアマモ由来POC残存率を推定することを目的とした. その結果,約9,000年前の堆積層から高等植物のバイオマーカー脂肪酸LCFAsを検出した.さらにLCFAsのうち脂肪酸C26:0の炭素安定同位体比を用いて有機炭素を海起源と陸起源に分離した.なお,陸上植物はマコモ,海洋植物はアマモで代表させた.堆積物起源の割合は各年代で大きく異なり,海起源が5~61%の範囲にあった.この割合およびLCFAs量を用いて,初期アマモ由来POC量を推算し,残存POC量を除することでPOC残存率を計算した.我々のアマモ分解実験結果を基にした最終的なアマモのPOC残存率は39.3%と予測していたが,今回算出した残存率は約24~51%の範囲にあり,モデルによる推定値と近い値を示した. 以上より,小川原湖堆積物ではアマモ由来POCは数十%程度残存している可能性が示唆されるとともに,堆積物コアサンプルの分析からブルーカーボン量の推定ができると考えことが示唆された.
|