研究課題/領域番号 |
16K14332
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
今井 剛 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (20263791)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 底質浄化 / 導電性微生物 / 電子授受機能 / 貧酸素化抑制手法 / 閉鎖性内湾 |
研究実績の概要 |
我が国では東京湾、瀬戸内海、有明海を始め各地で貧酸素水塊が発生し、その対策が急務とされている。しかしながら現状では、浚渫等の極めて高コストな対策しかないために、ほとんどなされていない。そこで本研究では、貧酸素水塊の抜本的な対策として「微生物を“電池(堆積物燃料電池)”として利用可能なシステムを構築し、その電極間をショートさせることにより底質(堆積物)中の酸化還元電位を上昇させ、貧酸素水塊の抑制につなげること」により、原位置にて底質の浄化を行うことのできる全く新しいシステムの開発を行うことを目的とし、H28年度は以下の2つの項目について実施した。 1.導電性物質そのものを底泥中に挿入した場合の効果の確認 2.底泥内の微生物の密度に対してどの様な導電性物質がどの程度必要か、その材質の種類と量的把握、その形状に関する検討 実験結果から、 1.については、山口湾から採取した底質と人工海水を用いて底質中とその上部の人工海水中とに導電性物質:電極(カーボンクロス)を設置して電線でつなぎ、その中間に100Ωの抵抗をセット、その両端で電圧を測定した。測定された電圧から電流を計算した。実験開始から20日ほどで電流は最大値(0.6mA程度)に達し、40日目から徐々に低下する傾向が見られた。以上から、カーボンクロスは十分に電極として作用し、この堆積物燃料電池によって、底質中の有機物の分解にともなって生成した電子を底質の上層水中に受け渡すことができたと考えられる。 2.については、底質中の強熱減量値が確実に減少傾向を示していたため、有機物の分解が確実に生じていたと考察される。しかしながら、電極付近の有機物が減少すると電流が低下したと考えられるため、電極付近のみの有機物分解(底質浄化)にとどまっていたと考えられる。そこで、通電性物質(スラグなど)の散布による電子の受け渡しの補助が必要であると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度に実施した以下の2つの項目について、 1.導電性物質そのものを底泥中に挿入した場合の効果の確認 2.底泥内の微生物の密度に対してどの様な導電性物質がどの程度必要か、その材質の種類と量的把握、その形状に関する検討 実験結果から、 1.については、安価なカーボンクロスが電極として用いることが可能であることが明らかとなった。したがって、本項目については想定した結果が得られたと考えられる。 2.については、底質中の強熱減量値が確実に減少傾向を示し、有機物の分解が確実に生じていたと考察される。しかしながら、電極付近の有機物が減少すると電流が低下した(40日付近から50日にかけて電流値が低下した)と考えられる。これは、強熱減量値から底質中にまだ有機物が存在していると考えられるため、電極付近のみの有機物分解(底質浄化)にとどまっていたものと推察される。すなわち、液相中であれば混合による電極との接触機会が生じる可能性も高いが、底質中の場合は微生物が電子を受け渡す範囲が電極付近に限定されてしまう。そこで、導電性物質(酸化鉄やスラグなど)の散布(底質中への混合)による電子の受け渡しの補助が必要であると推察され、来年度にその検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の結果を踏まえ、H29年度は以下の3項目を実施する。 1.H28年度の2.にて検討した結果(導電性物質(酸化鉄やスラグなど)の散布(底質中への混合)による電子の受け渡しの補助の必要性)をラボ実験により、導電性物質の量を変化させて複数条件で比較し、その効果を確認するとともに、必要投入量、効果発現期間を把握する。 2.底泥表層に導電性物質を散布し、どの程度の深さまで効果があるのか、実地に近い条件にて確認する。具体的には、カラムによる不撹乱底質の採取とそれを用いた底質浄化実験を実施(導電性物質の量を変化させて、複数条件で実施)し、本法の効果を確認するとともに、以下の3.の実施のための情報・知見を蓄積する。 3.汚濁の進行が著しい発展途上国の内湾や養殖池等の底泥(汚濁の進行が著しい発展途上国としてH28年度に調査を行ったタイを選定し、そのタイのバンコク近郊の干潟底泥やマングローブ林底泥、エビの養殖池等における底泥を想定)を用いて本法の効果を実験的に確認する。なお、効果の確認方法としては、上記2.の実験に類似した方法を用いる予定である。 以上により、本法の有効性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
導電性のファイバー(実際に購入したものはカーボンクロス)が想定よりも極めて安価であり、かつ1つの実験期間が長く、当初想定したよりも少ない量の導電性ファイバー(カーボンクロス)、白金線での実験実施が可能であった。結果的に当初予定額の41%程度の支出となった。さらに、バンコクでの調査を想定していた学生の旅費が、山口大学が実施しているグローバル人材育成プログラムによりサポートされ、また今井の出張期間も6日間と短かったため、当初予定額の30%程度の支出となった。また、前述の通り、1つの実験期間が長く、当初想定したよりも少ないサンプル数であったため、謝金が当初予定額の46%程度の支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
タイのバンコク近郊における現地実験が予定されており、H28年度に比較すると多くの消耗品が必要となる。また、同様に分析・解析のための謝金も増加すると考えられ、それらに充てる。さらに、H28年度で山口大学が実施しているグローバル人材育成プログラムが終了したため、H29年度からはそのサポートによる学生のタイ、バンコクへの旅費の支出サポートができない。加えて、途上国での現地実験であるため、学生一人で行わせることには問題がある。したがって、学生数を二人に増やしてタイのバンコク近郊における現地実験を行う。また、今井もH29年度はタイのバンコク近郊における現地調査、現地実験に同行する予定であるため、それらの旅費の増加分に充てる。
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