世界的規模で問題になっているヒ素汚染を調査する際に、ヒ素濃度の迅速・安価な測定法は研究の端緒として必須の技術である。現在用いられているICP-MS法等の大規模な機器を使用しない、微生物を用いたヒ素の検出・測定法の構築を目標として研究を行なった。ヒ素濃度の環境基準は10 ppb(約0.13μM)であるため、この濃度のヒ素の検出を最低の目標とした。用いる細菌として、土壌由来の細菌であるRhodococcus erythropolis IAM1399株、およびそのヒ素耐性遺伝子群破壊株(以下IAMΔars株)を用いた。それぞれの株に、亜砒酸に応答する転写制御因子ArsRをコードするarsRと、ルシフェラーぜ遺伝子の上流にArsR結合領域を挿入したものを保持するレポータープラスミドを導入した。 昨年度までの研究で、リン酸を培地中に加えることで、ヒ酸の取り込みが抑えられ、亜ヒ酸に依存した発光が観察された。しかし、ヒ酸に対する活性が低かったため、細胞内でヒ酸を亜ヒ酸に還元するArsCタンパク質を高発現させることで、ヒ酸に対する応答を増大させることを目指した。arsCの上流に、構成的プロモーターを挿入したプラスミドを導入し、ArsCを高発現させた。しかしヒ酸に対する応答は大幅には改善しなかった。 同時に、今回作製した株を用いて、ヒ素汚染土壌サンプル中のヒ素を水で溶出したサンプルのヒ素濃度測定を行なった。その結果、発光が確認され、ヒ素の検出に成功した。しかし、原子吸光高度計を用いたときの濃度と、発光量から予想した濃度には差があり、濃度を測定できるまでには至らなかった。
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