本研究では、活性汚泥における微生物生態系を制御した実験を行うことで、微生物の食物連鎖の変化に対して、窒素安定同位体比がどのように変化するのか調べた。具体的には、捕食-被食作用の影響のみを把握するため、活性汚泥を飢餓条件下(曝気のみの条件)において運転した。このとき、活性汚泥を連続的に採取して分析に供することで、窒素安定同位体比等の変化を把握した。同時に、水質、汚泥量、微生物相、高次生物を把握し、汚泥の食物連鎖における捕食作用を定量的に把握した。 また、活性汚泥の運転管理の指標であるSRTに対して、本研究で提案する食物連鎖の指標である窒素安定同位体比の関係性を調べることで、適切な運転管理に向けた食物連鎖の理解と制御のための基礎的な知見を得ることを行った。SRTを長く維持することで、高次生物の出現等により生態系ピラミッドの食物連鎖長が長くなり、余剰汚泥の減容化がより進行しやすくなると考えられるが、これまではSRTと食物連鎖の定量的な関係は不明であった。そこで、活性汚泥におけるSRTが異なる条件において、余剰汚泥の発生量と窒素安定同位体比の比較したところ、SRTの増加とともに窒素安定同位体比が上昇しており、食物連鎖による汚泥の減容化を定量的に明らかにすることができた。 これまで、生物学的排水処理法では、有機物分解や余剰汚泥の減容化に対して、微生物食物連鎖が重要な役割を担っているが、その評価はほとんど行われていなかった。しかし本研究により、窒素安定同位体の自然存在比に着目することで、捕食に伴う同位体分別効果を利用して、微生物食物連鎖の機能(捕食効果)を定量的に評価できる可能性が示唆された。
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