本研究では,せん断破壊する鉄筋コンクリート部材のせん断強度を評価するため,複数の鉄筋コンクリート部材の構造実験を実施した。平成28年度においては斜張力破壊するせん断破壊する鉄筋コンクリート部材の内部応力度を調査し,次の知見を得た。(1) 最大主応力がコンクリートの引張強度に達すると,ひび割れが生じる。(2) せん断斜張力破壊する鉄筋コンクリート部材では,最小主応力がコンクリートの圧縮強度に達し,モールの応力円はクーロンの破壊基準に達した。(3) 軸応力度とせん断応力度の関係により,破壊形式の推測が可能であることがわかった。さらに,平成29年度においては,高強度鉄筋を用いた縮小および実大の鉄筋コンクリート柱部材の構造実験を実施し,せん断破壊性状と現行の損傷度評価の関係について調査し,次の知見を得た。(1) 実大の試験体では,コンクリート強度が低く付着割裂破壊した試験体のせん断耐力が荒川min式を下回ったが,縮小試験体のせん断耐力は全て荒川min式を上回った。(2) 26日間の長期荷重加力により約33%のクリープによる鉛直ひずみの増加が確認されたが,残留ひび割れ性状には大きな影響を及ぼさなかった。(3) 現行の被災度区分判定基準による損傷度評価は,コンクリート強度が低いおよび高い試験体においてそれぞれ過小,過大評価した。 本研究では以上の結果から,鉄筋コンクリート部材のせん断補強筋量や軸力によって斜張力破壊を予測することが可能であることを示し,精度の高いせん断耐力推定手法に繋がる知見を示した。さらに,コンクリート強度が低い部材が付着割裂破壊する場合においてせん断耐力が荒川min式を下回る場合があること,および,現行のひび割れ幅による損傷度評価方法では実際の損傷度と乖離する場合があることから,高強度鉄筋を用いた部材に対する現行の設計方法および損傷度評価方法に課題があることを示した。
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