研究課題/領域番号 |
16K14348
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
土川 忠浩 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50180005)
|
研究分担者 |
前田 慶明 広島大学, 医歯薬保健学研究科(保), 講師 (10536783)
服部 託夢 北陸大学, 医療保健学部, 講師 (80549220)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 温熱環境 / 体温調節 / 頸髄損傷者 |
研究実績の概要 |
本研究では、都市・建築と様々な機器が情報ネットワーク化(スマート化)する時代において、体温調節が困難な障がい者(主に脊損・頸損者等)が、このようなネットワークを利用して、より安全・安心で自立的な活動(日常生活での外出やスポーツ等)を行うための人間-空間マネジメントシステム構築の先駆的基礎的検討を行うことを目的とする。この成果は近年盛んになっている障がい者スポーツや、健常者にも本質的に適応可能で、個人の特性を考慮した都市・建築の温熱環境ユニバーサルデザインが期待でき、その意義や重要度は高い。 昨年度に引き続き、車いすスポーツや就労して自立生活を行っている障がい者(頸髄損傷者)を対象として研究をおこなった。温熱環境プロフィール構築において課題となる熱的疲労についての基礎的検討、体温モニタリング装置開発のために新型の小型深部温度計による温度測定とその評価、および屋外環境におけるリカバリスポットの試作と基礎的要件について検討した。 温熱環境プロフィールは、本研究で新たに提案している基本概念で、特に頸髄損傷者や重度の脊髄損傷者のように体温調節ができない障がい者に対してその体温調節に関わる体感や体温維持の対処などの個人の特有の履歴を顕在化させようとするものである。この履歴において、疲労(熱的疲労を含む)の評価は、これまでに当事者へのヒアリングを通して明らかになった重要な課題である。そして、その評価手法の確立は体温モニタリング装置の開発および体温予測、さらには本研究で提案する都市・建築におけるリカバリスポット空間の諸要件のうちの重要な課題である回復(リカバリ)に深く関わるものであると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・温熱環境プロフィール構築の基礎的検討では、昨年度に引き続き基に主に頸損者の「熱的疲労」について検討した。障がい者スポーツを行っている頸損者を対象に、車いすテニス練習時での体温(耳内温など)・心拍等の生理反応、寒暑感・快適感・疲労感などの心理反応を測定した。また、3軸加速度を用いた車いす操作やラケット動作の動作解析とその評価方法について検討した。さらに、下肢切断者と健常者を対象に連続ジャンプ後の疲労やリカバリの程度の違いについて機械的筋収縮特性測定器を使用して測定した。その結果、下肢切断者の 腓腹筋の収縮反応が健常者より遅延しており回復の遅延傾向が示された。 ・携帯型体温モニタリングの開発では、当事者になるべく負担の少ない深部温・皮膚温測定装置のプロトタイプの開発と、障がい者の体温調節予測シミュレーションモデルの改良を行った。深部温計については研究協力にある企業が新規に開発した小型深部温度計を用いて、頸損者の車いすテニス練習時、および長時間の外出時における変動を測定し、その有効性等について検討した。 ・リカバリスポット空間の基礎的検討では、リカバリブースの試作を行うとともに日射・照り返し熱の遮蔽、濡れ表面を用いた冷却、および気流を効率よく取り込むためのウインドキャッチャーの形状検討とそれらの効果について検討した。また、移動時を想定した車いす乗車者の大腿部部分に対する新たな日射遮蔽装置の提案と、人体形状数値モデルを用いたシミュレーションによりその効果の検証を行った。さらに、屋外環境において車いす乗車者に対する方向別熱放射環境の評価方法を検討するために、車いすに自作の環境測定装置を取り付けて、市街地における様々な温熱環境を対象に実測を行った。 今後これらを詳細に分析し、さらに発展させる。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度に行った成果をもとに次のように発展させる。 (1)自立障がい者を対象とした「温熱環境プロフィール」の構築の基礎的検討では、さらヒアリング等を行い、その具体的な構造化と活用の方法について検討する。活用には当事者のみならず介助者への介助支援方法の教示機能も有することが望ましい。これら考慮した条件整理等を行うとともに、携帯型体温モニタリングシステムに組み込むことの諸要件について検討する。 (2)プロフィールと連携する携帯型体温モニタに必要な連続的測定方法の検討のため、体温モニタリングとその予測の実用化の向上を図る。これには深部体温の測定・予測が課題となっており、被験者実験データの詳細分析をもとに行う。 (3)都市・建築におけるリカバリスポットの基礎的検討では、移動式のリカバリブースの試作を重ね、より実用性を高める。また、夏季屋外移動時の車いす障がい者の環境評価方法について、これまでの本研究の成果をもとに進展を図る。 これらの得られた結果をとりまとめ、学会発表を行う。
|