研究課題/領域番号 |
16K14361
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
山田 あすか 東京電機大学, 未来科学部, 准教授 (80434710)
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研究分担者 |
古賀 誉章 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (40514328)
佐藤 栄治 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (40453964)
大島 千帆 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (40460282)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本版CCRC / 生涯活躍のまち / スマートウェルネスシティ / 福祉型複合コミュ二ティ |
研究実績の概要 |
本研究では,本格的導入が検討されるCCRCを含む介護・看護・生活支援機能の一体的提供による高齢者を含む住人の互助的生活支援コミュニティを,既存の制度の枠組みを超えて“福祉型複合コミュニティ”と総称する。こうした取り組みの拡がりは多様だが,その全体像を把握することで,整備の可能性を拡げ,将来的な国土計画や高齢期のQOLの向上,持続的な地域経営に資する資料とできる。そこで,国内での地域性や運営者の創意工夫に応じた多様な事例を“地方都市と都心部/新築と改修/パッケージ型とネットワーク型”といったモデルで捉え,居住者の生活や交流の様子,地域への波及効果などの包括的視点で整理し位置づけ直すことで,今後の整備や制度利用における「選択」や,効果的整備のための資料としてとりまとめる。 平成28年度にはまず,概念の拡張的整理のため,日本版CCRCのモデル事業と位置づけられる事例,大都市近郊の高齢化の顕著な大規模団地や有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅における地域コミュニティとの連携など,介護・看護のネットワークによる実質的な福祉型複合コミュニティとみなせうる事例を訪問して実態調査を行った。またCCRCモデル事業について,利用者と運営者へのインタビュー・アンケート・実測・観察調査を行った。ここから,新築/改修,集中/分散など多様な建築的特徴と入居者の生活様態,利用者のニーズ,コミュニティ運営の手法,またそれぞれの事例での事業モデルの整理を進めている。これらの実地調査の結果をもとに,福祉型複合コミュニティを定義するための条件の整理を行っている。 また,日本の農村部の人口減少,人口構造の変化に鑑み,集落の産業,生活,介護資源,活性化資源,等に着目して,日光市栗山地区,栃木市北西部の人口,産業,介護,医療等の統計データから,地方都市―周辺山村部での中規模地域での人口循環の可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施1年目にあたる平成28年度には,全国の日本版CCRC(生涯活躍のまち,と改称)の事例を文献調査によって調べ,他にも複数の方策によって実質的に「福祉機能を中心に経済・雇用・人口集積を保障しつつ互助・共助によってQOLの向上を企図したコミュニティ」となっている事例を併せてデータベースを作成しつつある。さらに,これらの事例のうち,特徴的な事例について見学・現地訪問調査を実施した。現在までに,多様な地域性に配慮して幅広く事例を収集する子とを目的として北海道から沖縄まで,7箇所の調査を行っており,多様な事例やその地域との関わり方について整理を進めている。 また,日本版CCRCのモデル事業とされる地方・集落型新築の事例と大都市郊外・団地改修型の事例,下町の地域資源ネットワーク活用型の事例において,長期間,定期的に訪問・滞在しての観察・ヒアリング調査を行っており,利用者や運営者からの丁寧な聞き取りやコミュニティ形成の様子を記録することで,利用者のニーズや運営者の配慮点等を整理している。このなかで,例えば栃木県内の地方独立集落新築型の事例については、「福祉型複合コミュニティ」を成立させるのに一定の役割を果たすことが期待される都市部からの移住の可能性と移住者の暮らしに関する知見は得られたが、近隣に居住者 が少なく、かつ都市部からの移住者がほとんどを占めるため、周辺地域の活性化に対する影響に関してはほとんど知見が得られない施設立地であることが明らかになっている。 こうした成果については,随時査読付論文誌に投稿,また学会やシンポジウムにて発表を行っており,積極的な発信が,研究におけるアドバイザリーボードの拡大にも寄与している。積極的な実地調査での関係者と研究グループとのディスカッションなどを通して確実な進捗を重ねており,研究実施のスピードならびに質ともに,順調に推移していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は全体として順調に推移していることから,当初計画とは変更なく,これまでの調査の結果を踏まえ,さらに適切な事例を追加していく。また,都市部や都市近郊の大規模団地やサービス付き高齢者向け住宅,集落様新築事例等の幅広い事例において,利用者との関係構築に基づく,具体的な生活や交流の様子やニーズ,介護・看護が必要になった場合に想定される生活や支援などを継続的インタビューやワークショップ等を通じて共有し,把握する。また,大都市近郊・地方都市の中心部など地理的に有利ではない,外部からの投資やハイリターンの望めない地域にどのようにCCRCを展開するかも大きな課題である。このような地域の事例として,日光市,栃木市では,自治体主導によって外部からの投資ではなく小さい範囲での公的要素の強い人口・資金・サービス循環モデルを構築することを検討している。こうした事例でのマネジメント手法について解析的提案を行なっていく。 研究グループの参加者が構築してきた研究手法や知見,また運営者との関係を活かして,地域性と利用者ニーズに応じたコミュニティ運営の手法,課題と解決策の整理,利用者・運営者による自立的なコミュニティ運営の手法と工夫の整理,事業モデルと波及効果の整理,を行う。併せて,福祉型複合コミュニティの拡張的概念とその定義を整理し, CCRCやスマートウェルネスシティ等を含む実例の相互マッピングに基づき,福祉を核として組み込んだ住民・地域事業者の相互支援と共存の仕組み“福祉型複合コミュニティ”の概念と,その整備の手法や工夫を提言としてまとめる。これは,地域の特性や地域・住民のニーズに応じた施設整備策や地域経営方針の検討,高齢世帯の住まい方選択のための資料となる。 なお研究の各段階で,研究成果を国内外の学会や,websiteでの研究情報公開によって多様な主体の参画や意見収集を行いやすい土壌を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
地方・集落様新築事例等であるCCRC内に借り上げで研究拠点を構えて,長期間の調査をする計画であった。調査員を依頼した学生がたまたま施設の近くに居住していたため,交通費と宿泊費に余裕が生じた。また対象施設において,研究の趣旨をご理解いただけたことで,拠点借り上げ費用をディスカウントしていただくことができた。このため,拠点借り上げ費用が当初計画よりも抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
若干の余裕が生じたため,調査対象先を増やすことができる。また,上記CCRCでの継続調査を行うことで,運営や利用者のニーズをさらに丁寧に把握することを目指す。
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